2024年12月23日( 月 )

自らをイエス・キリストになぞらえる孫正義氏の未来ビジョンは大丈夫か

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、7月8日付の記事を紹介する。

 世界の目はウクライナ戦争に注がれています。

 圧倒的な軍事力を誇るロシアに対し、ウクライナはインターネットを味方につけた情報戦、いわゆる「ハイブリッド戦」を巧みに展開し、欧米諸国からの支援を得て、もちこたえているようです。

 日本を含め、多くの欧米諸国が戦争終結後の復興をも見据えて、長期的な支援を相次いで表明しています。

 こうした状況はソフトバンクグループを率いる孫正義氏が「予想した通りだ。これからの時代はビジネスも戦争もインターネットやAI(人工知能)が左右する」と強気の発言を繰り出す背景になっているようです。

インターネット情報戦 イメージ    ウクライナ戦争に際して西側の団結を強める目的を込めて、去る6月、東京ではバイデン大統領の訪日の機会にQUAD首脳会談やアメリカが提唱する「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)の準備会合が開催されました。

 QUADの構成国であるアメリカ、オーストラリア、インド、日本が中心的役割をはたすことが期待されています。

 岸田首相はアメリカの要請に応じるかたちで、アジア版というよりは、グローバルNATOを形成するうえで、QUADを経済、軍事両面で支える意向を明らかにしました。

 アメリカでは民主、共和の党派を問わず、軍需産業がロビー団体として大きな政治力を行使しています。

 ポンペオ前国務長官、元CIA長官はその代表的な存在です。

 先週もアメリカのハドソン研究所で演説を行い、「ロシアと中国を潰すのはキリストの望みだ。アメリカはキリストの教えに従い、同盟国とともに独裁国家と戦う。自前の軍力を強化し、NATOをヨーロッパからアジア、世界に拡大する」と訴えました。

 これには、自らをイエス・キリストになぞらえ、「自分は誤解されやすいが、世界の繁栄のために戦う」と宣言してきた孫正義氏も驚いたに違いありません。

 というのも、孫氏はQUADの構成員でありながら、軍事的な色彩を強める日米とは一線を画すインドに同調し、このところは軍事超大国を再建しようと目論むトランプ前大統領やその支持者とも距離を置いているからです。

 実際、孫正義氏はQUAD首脳会議のために来日したインドのモディ首相と1対1の個別会談を行っていました。

 孫氏曰く「インドは急成長を遂げている。毎日、新たなスタートアップ企業やユニコーンが誕生しているではないか。インドの未来は明るい。モディ首相はこうしたスタートアップ企業の支援策を強力に推し進めている。インドは世界のハイテク産業の中心になるだろう」。

 インドへの投資を加速させている孫氏にとって、モディ首相とのタイアップは欠かせません。

 モディ首相の来日という格好の舞台を得て、「インドにおけるハイテク、エネルギー、金融の主要分野に対する投資や事業拡大」に関する合意を得ることに成功。

 というのも、モディ首相は岸田首相が意図するバイデン大統領の主張にそった対ロ経済制裁や中国封じ込めの色彩の濃いIPEFには積極的ではなく、それよりは孫氏をはじめ日本の経済界のトップとの個別会談を重視したからなのです。

 そうしたインドの非武装的発想や経済優先政策を理解し、孫氏はモディ首相の懐に巧みに食い込んだといえるでしょう。

 さらにいえば、孫氏はインドネシアの首都移転計画にも関心を寄せていましたが、現地をたびたび訪問して実態調査を行った結果、「実現の可能性は低い」と見切りを付けてしまいました。

 というのも、インドネシアの人口はアセアン最大であり、資源も大量に眠っているのですが、経済や技術力が乏しく、孫氏に対しては「首都移転計画の実現のために相当額の投資」が求められていたのです。

 利に敏い孫氏は素早くそろばんをはじき、採算が合わないと踏んで撤退を決断したようで、要は、インドネシアからインドに乗り換えたわけです。

 当然、インドネシアからは「裏切り行為」とそしられました。

 そうした際にも、孫氏は「自分は誤解されやすい。イエス・キリストがそうだったように」と奇妙な言い逃れをしています。

 注目すべきは、孫氏から袖にされたインドネシアは何とロシアに急接近をしているのです。

 ウィドド大統領は6月30日にモスクワに乗り込み、プーチン大統領と直談判におよび、
首都移転計画への支援と協力を要請しました。

 そして、ロシアから鉄道建設などインフラ整備への投資を引き出し、加えて東ジャワ島での油田開発に向けて両国の国営石油企業による合弁事業の設立にも合意を勝ち取ったのです。

 実は、ウィドド大統領はロシア以外にもアラブ首長国連邦や台湾からも首都移転計画への支援を得ることにも成功しています。

 ひょっとすると、孫正義氏は大きな魚を逃したのかも知れません。

 次号「第303回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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