2024年12月22日( 日 )

安倍元首相銃撃 旧統一教会の“広告塔”を狙った計画的犯行?

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 安倍元首相が8日午前11時半ごろに元海上自衛隊員の山上徹也容疑者に銃撃され、午後5時すぎに亡くなった。山形選挙区で応援演説をしていた岸田首相はすぐに官邸に戻って午後2時45分から記者会見。「民主主義の根幹である選挙が行われているなかで起きた卑劣な蛮行であり、決して許すことはできない」と述べる一方、今後の政局に与える影響や背景についてはコメントを避けた。

 野党も次々と声明やコメントを発表。立憲民主党は午後3時すぎに「非道な行為は絶対に許さない」と題する声明を発表した。
「激しい怒りを禁じえず、最大限の言葉をもって強く非難する」「このような行為は民主主義に対する重大な挑戦であり、国民全体を不安に陥れるものである。立憲民主党は暴力を強く否定し、断固たる姿勢で我が国の言論の自由を守っていく」

 れいわ新選組も安倍元総理銃撃を受けて声明を発信した。「自由な論戦がもっとも保障されなければならない選挙期間中に起こされた今回の銃撃事件は、言論と政治活動を封じるものであり許されない」。

 日本維新の会も談話を発表。「民主主義は言論で戦い、国民の支持を獲得することで成り立っている。どのような立場の者であろうと、暴力による言論の封殺を私は、決して許さない。これは、日本の民主主義に対する挑戦であり、破壊行為である。言論による民主的な政治環境に戻すことを強く望む」と訴えた。

 不可解なのは、背後からの銃撃を許した警護態勢だ。テレビ各局は元首相銃撃のニュースで一色となり、「選挙中の警護は候補者が聴衆との触れ合いを求めるので難しい」という解説もあったが、銃弾が背後から発射されたのは演説中で、聴衆と至近距離でグータッチをする街宣後ではなかった。背後の警備が甘かったことが銃撃を許した最大の原因であったのは明らかなのだ。

 候補者や応援弁士が街宣車上で演説をする場合、聴衆は前方側に限定して後方側(背後)は警備関係者や陣営スタッフで固めることが多い。演説を聞かない人が背後を通ることが可能でも、その一挙手一投足は監視される。背後から狙われるのが最も危険であるからだ。

 それなのに今回は、背後がスカスカの状態。通常では考えられないほどの警備態勢の甘さについて今後、厳しく検証されていくことは確実だ。

 事件の真相も「政治テロ」とは言い難いことも判明しつつある。メディアが報じる山上徹也容疑者の供述によると、動機は家庭を破産させた宗教団体「世界平和統一家庭連合(旧・統一教会)」への恨み。そして、この団体とつながりがある安倍元首相を狙ったというものだ。当初は宗教団体トップを標的にしようとしたが、日程把握が困難であったため、安倍元首相に切り替えたというのだ。参院選の応援弁士の街宣日程は、自民党のHPで公開されて、誰でも容易に知ることができたのだ。

 安倍元首相とのつながりも公開情報から知ることができる。旧統一教会の主な資金源である霊感商法については、金銭的搾取や家庭破壊などの被害をもたらすことが社会問題化。「全国霊感商法対策弁護士連絡会」が2021年9月、国会議員らが集会参加や祝辞などでお墨付きを与えているとして安倍氏宛に公開抗議文を送付していた(9日の郷原信郎弁護士のブログ「安倍元首相殺害事件は『1つの刑事事件』として真相を見極めるべき」より)。

 安倍元首相は旧統一教会とつながりのある代表的政治家であったといえるのだ。ネット検索をしても「統一教会系イベントで流れた安倍元首相のビデオメッセージ」と題する動画や、しんぶん赤旗の関連記事にたどりつくことができる。山上容疑者が安倍氏を旧統一教会と関係の深い存在と見なし、犯行におよんだ可能性は極めて高いだろう。マスコミや政治家らは「政治目的のテロ」「言論の封殺」などと捉えて発信していたが、これに対して郷原氏は「1つの刑事事件」として真相を見極めるべきと主張していたのだ。

 マスコミは今回の銃撃事件を戦前の暗殺事件(テロ)と重ね合わせて「暴力による言論封殺」「民主主義を破壊」と決めつけ、安倍元首相追悼・称賛(翼賛)報道を垂れ流しているが、問題の本質は、家庭崩壊を招く霊感商法を規制するどころかお墨付きを与えてきた安倍氏ら自民党政治家の可能性もある。

神日本第1地区責任者出発式の様子
神日本第1地区責任者出発式の様子

    旧統一教会が自民党選挙の実働部隊になっている側面もある。7月6日、旧統一教会の集会「神日本第1地区 責任者出発式」がさいたま市文化センターの大ホールで開かれた。第一次安倍政権で首相秘書官を務めた井上義行候補(自民党全国比例)が、幹部から「井上先生はもうすでに信徒になりました」と紹介され、続いて「必ず勝たなければいけない。勝ちこそが善であり、負けは悪でございます」と訴えると、参加者から大きな拍手と歓声が沸き起こった。

 続いて挨拶をした井上候補は思ったことをそのまま口にする政治家と自己紹介。いまLGBT差別と批判されている自身の発言について、次のように訴えたのだ。
「(『同性婚反対』と言ったことで)今、トレンド入りしました。そして私が演説しようとすると『差別するな』というプラカードをもって(抗議が)始まりましたよ。まるで安倍元総理のようになってきましたよ(笑)。でも、またさらに大炎上になるかもしれないけれど、私は同性婚反対を、信念をもって言っていますから!」

 こう言い終えた途端、参加者から再び大きな拍手が起きたのだ。

 井上候補を取材したのは、街宣でLGBT差別発言を繰り返していたためだが、この日はSNS上に日程が発表されていなかったため、事務所に問い合わせて集会の時間と場所を確認。現地に駆け付けると、旧統一教会の責任者(幹部)集会が催されていた。

 集会後、同性婚反対を貫くと宣言した井上候補を直撃。「差別ではないか」と聞いたが、「あなた方がねじ曲げている」と反論するだけで、反対する理由を聞くことはできなかった。

 熱狂的信者が少なくないように見える旧統一教会が自民党の集票マシンの1つであることは確実だ。この密接な関係が、今回の銃撃事件とどう関わっているのか。今後も事件から目が離せない。

【ジャーナリスト/横田一】

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