2024年12月22日( 日 )

元電通・高橋氏が仕切った「五輪利権」に捜査のメス(前)

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 「濡れ手で粟」。大した苦労せずに楽にカネが儲かるという話をいう。金儲けをするのに、コスト(費用、資金、労苦、時間など)はできるだけかからないに越したことはない。その究極の理想がこの「濡れ手で粟」だ。東京五輪マネーに捜査のメスが入った。東京五輪は、仕切り屋にとって、まさに「濡れ手に粟」といえる一攫千金の大儲けをもたらした。

東京五輪利権の本丸、電通を捜索

汐留 電通本社ビル イメージ    東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の高橋治之元理事(78)が、大会スポンサーの紳士服大手(株)AOKIホールディングス(HD)から多額の資金提供を受けていた事件で、東京地検特捜部の捜査が本格化した。

 特捜部は7月26日、受託収賄の疑いで高橋元理事の会社兼自宅を捜索した。関係先として、高橋元理事の古巣の広告最大手(株)電通(東京都港区)を捜索に入った。続いて29日、広告大手(株)ADKホールディングス(HD、東京都港区)も家宅捜索した。ADKHDは旭通信社と第一企画が合併して発足した(株)アサツー・ディー・ケイ(ADK)の持株会社で、国内広告業界3位だ。

 特捜部が目指すのは、利権の宝庫と呼ばれた「五輪マネー」の解明だ。

 高橋元理事が代表を務めるコンサルタント会社(株)コモンズ(東京都世田谷区)は2017年秋にAOKIHDとコンサル契約を結び、AOKIHDは約4年間に少なくとも計4,500万円を提供した。

 特捜部は、AOKIHDの青木拡憲前会長(83)は高橋元理事にスポンサー選定と公式ライセンス承認をめぐる依頼をし、コンサル料名目で賄賂を提供したとみて調べている。

コンサル料4,500万円とは別に2億3,000万円を受領

 特捜部が家宅捜索に入ったことを受けて、新しい動きがあった。

 高橋元理事側が、すでに判明している約4,500万円のコンサルタント料とは別に、AOKI側から約2億3,000万円を受領していたという。

 日本経済新聞電子版(7月30日付)がいち早く報じた。

 関係者によると、高橋元理事はAOKIHDの青木拡憲前会長(83)と2009年に知り合った。資金のやり取りは理事在任中の17年秋ごろとされる。AOKIHDは広告大手の電通子会社(当時)に約2億3,000万円を支払った。その後、高橋元理事が経営するコンサルタント会社コモンズ(東京・世田谷)が受け取ったという。

 コモンズはこのうち数千万円を広告大手のADKホールディングス(HD)などを通じて日本オリンピック委員会(JOC)に加盟する2つの競技団体に提供。コモンズの手元には約1億5,000万円が残ったという。

 東京五輪スポンサーへの”口利き”で、高橋元理事は、AOKIHDから2億3,000万円を吸い上げ、1億5,000万円を懐に入れた。すでに判明している約4,500万円のコンサルタント料と合わせて、約1億9,500万円をゲット。報道によると、東京・六本木のアークヒルズで経営している高級ステーキ店の赤字補てんに使ったそうだ。”口利き”ビシネスで、”濡れ手で粟”のボロ儲けしたのである。

 「電通のスポーツマーケティング部門をつくり上げた第一人者」である高橋元理事は、スポーツビジネス界の”ドン”として、世界のスポーツ界で広く知られている。電通を辞めた今も絶大な力をもっていて、その人脈を生かして同じビジネスモデルを自分の会社で実践している。コモンズは”ミニ電通”なのだ。

電通のスポーツビジネスの極意は”中抜き”にあり

 電通が東京五輪で暴利を貪っている実態が明らかになった。東京五輪組織委員会の現役職員が21年6月5日放送の『報道特集』(TBS)の取材に応じ、電通や人材派遣大手(株)パソナグループによる異常な人件費と中抜きの実情を告発したからだ。

 組織委員会は五輪で使用する43会場の運営業務を、電通、(株)博報堂、ADK、(株)東急エージェンシーなどの大手広告代理店に委託した。組織委員会が企業と交わした契約書とその内訳書が流出した。

 バドミントン競技が行われる武蔵の森総合スポーツプラザ(東京都調布市)の運営は、東急エージェンシーが6億2,304万円で受託した。内訳書によると、「本大会に向けての準備業務」を担うディレクターの1日当たりの「単価」は、なんと35万円。日数は「40日」となっており、1カ月ちょっとで合計1,400万円にものぼっていた。

 『報道特集』で告発した組織委の現役職員は、35万円が「準備業務」だけの金額で、「運営マニュアル策定」などは別に報酬が支払われる。つまり、組織委は広告代理店に1日当たりの人件費として、1人の人物に準備業務の35万円、計画策定業務に25万円、「本番」での運営統括の20万円の合計80万円を支払っていると証言した。内訳書を見ると、1人に合計3,460万円が流れている。

 高額人件費は、本人に丸々支払われるわけではない。出向社員だから給料は会社持ち。手当は付くにしても、人件費はほとんどが中抜きされている。そう”中抜き”、平たくいえば”ピンハネ”が、東京五輪の利権の実態なのである。

電通がオリンピック利権を独り占め

 電通の最大規模の仕事が東京オリンピック・パラリンピックである。東京五輪の招致段階から、電通は大きく関与した。招致活動中の2009年3月、当時の石原慎太郎・東京都知事は、招致活動の基礎調査などの特命随意契約を電通と結んだ。電通は単なる広告代理店ではなく、複数の企業・団体による共同企業体(コンソーシアム)の司令塔の役割をはたした。

 東京五輪では国内外の企業約80社と総額3,500億円に上るスポンサー契約を成立させた。大規模のスポンサー集めを素人集団の組織委員会ができるわけがなく、電通がすべてオンブにダッコした。

 組織委員会は、開閉会式の企画・運営・出演者の調整や、聖火ランナーについても、電通に業務委託した。東京五輪のために、政府や都から大量のカネが流れた。東京五輪を裏で仕切ってきた電通は、五輪利権を独り占めした。

(つづく)

【森村 和男】

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(後)

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