2024年11月22日( 金 )

21世記のロスチャイルドを目指した孫正義氏、起死回生なるか(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

 半年で約5兆円という、記録的な巨額の赤字を出し、ピンチに追い込まれたソフトバンクグループの孫正義氏。攻めの経営によって快進撃を続けてきたが、世界的な株価暴落などの影響もあり、暗雲が立ち込めている。復活へ向けて、起死回生の策を打ち出せるのか。

インド・モディ首相の懐に食い込む

東京ポートシティ竹芝 イメージ    世界の目はウクライナ戦争から台湾有事へと転換し始めています。ウクライナの場合は圧倒的な軍事力を誇るロシアに対し、インターネットを味方につけた情報戦を展開し、欧米諸国からの支援の下、今のところ持ちこたえているようです。しかし、戦争が長引き、アメリカでもヨーロッパでも「嫌気」がさしてきています。

 また、アメリカにとっては中国の脅威のほうが深刻との受け止め方が出てきています。CIAでは中国分析センターを新たに立ち上げました。要は、中国の今後の動向がアメリカの国益を左右する可能性が高いというわけです。ペロシ下院議長が台湾を電撃訪問し、その後も議員団が相次いで台湾を訪問しています。

 中国は「一つの中国」という米中合意に反する行為として猛反発し、台湾周辺での大規模な軍事演習を展開するようになりました。と同時に、台湾へのサイバー攻撃も精鋭化し、大陸との融和を目指す国民党を支援することで、台湾世論の分断化を加速させようとしています。ネット空間での中台、米中間の覇権争いは日増しに激化する一方です。

 実は、こうした状況はソフトバンクグループを率いる孫正義氏が「予想した通りだ。これからの時代はビジネスも戦争もインターネットやAI(人工知能)が左右する」と強気の発言を繰り出す背景になっています。その意味では、ウクライナ戦争や台湾有事は孫正義氏の未来ビジョンの正当化を補強する格好の材料となっているわけです。

 ウクライナ戦争に際して西側の団結を強める目的を込めて、去る6月、東京ではバイデン大統領の訪日の機会にQUAD首脳会談やアメリカが提唱する「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)の準備会合が開催されました。孫正義氏はこの時来日したインドのモディ首相と1対1の個別会談を行いました。

 日本のメディアはほとんど関心を寄せていませんでしたが、孫氏の未来ビジョンにとって、インドは欠かせない成長市場なのです。インドへの投資を加速させている孫氏にとって、モディ首相とのタイアップは必然でした。モディ首相の来日という格好の舞台を生かして、「インドにおけるハイテク、エネルギー、金融の主要分野に対する投資や事業拡大」に関する合意を得ることにも成功しました。

 というのも、モディ首相は岸田首相がバイデン大統領の主張する対ロ経済制裁や中国封じ込めの色彩の濃いIPEFには積極的ではなく、孫氏をはじめ日本の経済界のトップとの個別会談をより重視したのです。そうしたインドの思惑を理解し、孫氏はモディ首相の懐に巧みに食い込んだといえるでしょう。

Arm社の売却計画がとん挫

 モディ首相の気持ちを鷲づかみした孫氏は6月24日、ソフトバンクグループの第42回目となる定時株主総会に臨みました。ここでは株主やメディアから厳しい指摘や質問が出されたものです。なぜなら、同グループの株価は下落を続けており、ビジョン・ファンドの投資先の価値も大きく目減りしているからです。

 しかも、ソフトバンクグループの傘下にあるイギリスの半導体チップ設計会社Arm(アーム)をアメリカの半導体大手NVIDIA(エヌビディア)に400億ドルで売却する計画がとん挫したため、その背景や理由を問い詰められることにもなりました。しかし、直前にモディ首相から前向きの発言を引き出したことに自信を得たのか、孫氏は始終、強気の発言で株主総会を乗り切ったのです。

 たとえば、Armの売却計画のとん挫については、「Armの未来は明るいので、本社のあるイギリスかArmの顧客の多いアメリカでの上場の可能性はあるが、まだ最終的な決断は下していない」と説明。どうやらナスダックでの上場を期している様子でした。攻めの経営を信条とする孫氏にとって「今後のビジネスの中心に位置づけているのがArm」というわけです。

 孫氏がイギリスのケンブリッジを拠点とするArmを買収したのは2016年のこと。当時の買収金額は320億ドルでした。当初から23年を目標に上場を狙っていたのですが、コロナ禍の影響で株価が下落を続け、上場計画を破棄し、売却の道を模索したというわけです。残念ながら規制当局の圧力でNVIDIAでの売却はご破算となりました。とはいえ、「転んでもただは起きぬ」のが孫氏の信条です。ナスダック上場という新たな目標を掲げることで株主へ期待をもたせる作戦に切り変えたと思われます。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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