ウクライナ戦争を左右する最新テクノロジーとマスク氏の思惑(前)
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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸苦戦する?ロシアの戦略
ウクライナ戦争はアメリカとロシアの代理戦争と言っても過言ではありません。東西冷戦が終結して以降も、アメリカはあらゆる機会を捉えてロシア潰しの画策を続けてきました。2014年に起きたウクライナでの親ロ政権の転覆工作も、その最たるものでした。そもそもウクライナのゼレンスキー大統領はアメリカの手の上で踊らされているピエロの役にしか過ぎません。
コメディアン出身のゼレンスキー氏が国民的人気を博するきっかけとなったテレビ番組や、その後の選挙戦においてアメリカは全面的に「アメリカの手先」に仕立てるべくシナリオと資金の提供を惜しみませんでした。彼が大統領当選後の3年間で英国領ケイマン諸島に設立した幽霊会社を通じて蓄財した金額は8億ドル近いと言います。一方で、彼の国内での支持率は当選時の90%から30%にまで急落していました。
プーチン大統領は「これならいける」と判断したに違いありません。プーチン大統領の当初の目論見はウクライナを短期間に制圧し、汚職まみれのゼレンスキー政権を排除し、西側寄りになろうとする弟分をロシアに引き戻すことで、自身が偉大な兄貴分として両国民から拍手喝采を受けることでした。
しかし、その目論見は見事に外れてしまったように見えます。首都キーウへの攻撃は思うに任せず、東部地域に戦力を集中し、何とかロシア系住民の多い地域をウクライナから引き離す戦闘を繰り返しているとの報道がもっぱらとなっているからです。
しかも、そうした地域でも欧米から射程の長い榴弾砲や高軌道ロケット砲システムなど最新兵器の提供を受けているウクライナ軍が踏ん張りを見せているため、ロシア軍も一進一退を続けざるを得ないようです。さらには、前線での指揮を執るために現地入りしていたロシア人将校の多くがウクライナ兵から狙撃され死亡したとも言われています。
中国は「戦わずして勝つ」道を模索
そうは言っても、ウクライナ戦争に関する報道においては、どこまでが本当か、具体的な検証はなされていません。というのも、情報戦に関してはアメリカをはじめとするNATO諸国が長けており、ウクライナに有利な報道が主流になっているからです。その点、ロシアのプーチン大統領よりウクライナのゼレンスキー大統領のほうが、欧米メディアの受けが良さそうです。注意すべきは、ウクライナ戦争の全体像は現時点では明らかになっていないことでしょう。
実は、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に関しては、ヨーロッパ方面に関心が集中していますが、ロシアはその裏で中国と連携して、アジアや北米に向けての作戦を密かに展開している模様です。このところ中ロはアジア方面での共同軍事演習を重ねていますが、そうした深慮遠謀に基づくものと思われます。
日本では「今日のウクライナは明日の東アジア」との見方が台頭しており、中国が台湾を武力で統一する動きが加速するのでは、といった危機感が生じています。しかし、中国の発想は孫氏の時代から「戦わずして勝つ」のが最善策です。それゆえ、中国は台湾に関しては海上封鎖を最優先することは間違いないでしょう。
陸続きでヨーロッパと結ばれているウクライナと違い、台湾は周囲を海に囲まれています。食糧やエネルギー、はたまた医薬品や武器弾薬に至っても海上輸送が欠かせません。中国は今や世界最大級の海軍力をもつようになりました。それゆえ台湾を海上封鎖することは簡単です。台湾の生命線である海上航路を遮断するのが中国・ロシアの合同作戦になると思われます。
それと同時に、中国とロシアは協力して、アメリカや日本、韓国の動きを封じ込めるための準備にも余念がありません。核戦略をちらつかせれば、アメリカや日本の動きを封じることは「赤子の手をひねる」ようなものと、中国もロシアも今回のウクライナ戦争から学んだはずです。
ウクライナを支援するため、アメリカは大量の兵器や経済支援を続けています。とはいえ、兵器や弾薬の到着も遅れており、アメリカからは約束した分の48%しか届いていません。ウクライナ政府に対する財政支援も約束された額の20%しか支払われていないのです。欧米諸国はウクライナを武器と財政支援で助けることでロシアを弱体化させることを目論んでいるようですが、プーチン大統領はそんなアメリカの思惑のはるか上を行く作戦を進めているわけです。残念ながら、日本政府は中国とのパイプを細めてしまい、そうした中ロの裏取引に関する情報を把握できていないのです。
要は、ウクライナに世界の目をくぎ付けにすることで、ロシアと中国はアメリカの弱体化を目指しているのです。膨大な軍事予算を計上しているため、アメリカは財政破綻が避けられないでしょう。ドルの信頼も揺らぐ一方です。
日本はアメリカにばかり忖度するのではなく、中ロの隠された動きにも注目し、両陣営とも巧みに等距離外交を展開するインドやASEAN諸国を味方につけ、独自の経済外交路線を追求する必要があるでしょう。
(つづく)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)は2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。【Blog】http://ameblo.jp/hamada-kazuyuki
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