2024年09月05日( 木 )

銀行は要らなくなるのか(1)各行に問われる存在意義

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銀行 イメージ    日本経済新聞などが、全国銀行協会が運営する「全国銀行データ通信システム」(全銀システム)への接続を、ITと金融を融合させたフィンテックにも認めるという記事を掲載した。これは、銀行が独占してきた口座を通じた決済を銀行以外にも開放するということである。

 マイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ氏が、「銀行機能は必要だが、銀行そのものは不要となる」という趣旨の発言をしたのは1994年と言われている。当時は一笑に付されたが、その予言が現実のものになろうとしているのだろうか。

 すでにそのような動きはある。急速に我々の身近に普及したPayPayなどのQRコード決済では、スマホのアプリで個人間の決済も可能である。若い世代では飲み会の精算をそのようなアプリで行うことが普通になっているという。さらに銀行への振り込みまで可能となれば、利便性はより一層高まるだろう。将来的には電子マネーでの給与振り込みも可能になると言われている。手数料も少額で済むとなれば、銀行振り込みそのものが不要となるかもしれない。

 既存の銀行も手をこまねいているわけではない。今年10月、メガバンクが中心となって「ことら」というサービスが開始される。これは、古くてコストのかかる「全銀システム」を使わずに決済を行うというものである。このサービスでも安価な個人間送金を実現し、銀行以外の事業者との連携も視野に入れているという。

 このような流れのなかで、既存の銀行は必要なくなるという論調も見られるようになった。たしかに、地方銀行を中心とした既存の銀行が大きな影響を受けることは間違いないだろう。しかし、筆者はより大きな影響を受けるのは新興のネット銀行ではないかとも考えている。

 日本にネット銀行が誕生し、20年以上が経過した。楽天銀行や住信SBIネット銀行など、有力地銀と遜色のない預金量の銀行も現れている。楽天銀行では、将来はメガバンクを超える口座数となり、預金量も地銀最大手を超える20兆円を目指す計画だという。

 このようなネット銀行の勢いを考えると、安価な手数料や高い金利に敏感な顧客はすでに流出しているはずである。しかし、それでも苦しいながらも地方銀行は存続している。それは、安価なサービスのみを重視する顧客ばかりではないことを意味しているのではないだろうか。使い慣れた今までのやり方を続けたいという高齢者も多いだろう。そう考えると、今後、さらに安価な新しいサービスが登場したとしても、移行するのはネット銀行の顧客が中心ではないかとも思えてくる。

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最終ゴールの戦略確定の差

 事実、店舗を削減した銀行では来店客が減少し、投資信託や保険といった銀行商品以外の販売が低迷し、かえって収益が悪化しているという話も聞こえてくる。それは自らの持つ武器を捨ててしまった結果のようにも思われる。

 ネット銀行でも、コンビニ内のATMで預金の預け入れや引き出しが可能である。既存の銀行が同じようなことをやっても勝ち目はない。差別化を図るのであれば、店舗網を効率化しながらも、店舗を生かした戦略を取るべきである。それは、何もせずに今のままでよいということではない。生かすべきものを残し、顧客のニーズに沿った大胆な戦略を描くことが大事なのだ。

 ふくおかフィナンシャルグループは、福岡銀行、十八親和銀行、熊本銀行という地方銀行を抱えながらも、「みんなの銀行」というデジタルを活用した銀行を設立した。それぞれの銀行に異なったニーズがあるという判断があったからだろう。すべての銀行がそのような道を選択することは不可能である。しかし、ネット銀行と提携するなど、譲るべき点は譲り、守るべきものは守ることで生き残る道はあるはずだ。

 そもそも、銀行の決済機能のみに焦点を当てて、銀行が不要になるという論調は乱暴である。銀行には、決済のみならず、集めた預金で融資するという大事な機能もある。対面で相談したいというニーズは残り続けるのではないだろうか。

 とくに、法人融資では高度な審査が必要であり、ネット銀行にはまだ十分な機能が備わっていないように思われる。地域に必要なものは何かを突き詰め、自らの持つ優位性をさらに磨いていく努力を怠らなければ、これからも地方銀行は地域に必要とされる存在となるはずだ。地域の中堅・中小企業、零細企業に資金を供給するという役割も、その1つだろう。

 既存の銀行には、世の中の風潮に踊らされるだけでなく、置かれた環境を冷静に分析し、自らの使命を見つけることを期待したい。ぜひとも、「銀行は不要」などという言葉を跳ね返す気概を見せてほしいものだ。

【福岡 正義】

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