2024年12月22日( 日 )

【福岡IR特別連載101】佐世保ハウステンボスと日米経済安全保障

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佐世保 イメージ    前号で長崎IRおよびハウステンボス売却・転売問題をめぐり、近年の“日米経済安全保障問題”を取り上げ、地元の政治家と行政官の認識のなさと、これらへの対応について、長崎県行政と議会を筆頭に、佐世保市行政、議会ならびに地元マスコミ各社などの愚かさを痛烈に批判した。彼らに「国際感覚もなく、平和ボケで歴史認識もない」点について解説する。

 まず、先日の朝長佐世保市長の公式発言である「当該地所有者が変わっても、長崎IRには一切影響しない」(7月22日、ハウステンボス売却転売問題についてのマスコミ対応時の発言)は、現地の首長としては非常に愚かで、浅はかだ。その主な理由は下記の2つである。

 1つ目は、朝長佐世保市長が自ら認めているように、長崎IRと当該地ハウステンボスは“パッケージ・プロジェクト”である。従って、その土地と施設全体の所有者が変われば、すべての条件が変わる可能性があるのは当然の話である。当該地管轄行政の首長としては何と単純な発想の発言か。

 報道されているように、IR開発の長崎県行政の頼みの綱は、ハウステンボスの既存の福岡財界株主たちであるが、その筆頭である九州電力に西部ガス、JR九州、西日本鉄道の各社は、一斉にその持ち株のすべてをHISに売却し、完全に当該地とのつながりである法的上の「絆」がなくなることになる。

 以前にも解説したように、これらは九州電力の松尾新吾氏や元JR九州の石原進氏らいわばOBが行ったことであり、サラリーマン組織の現職の主管者たちは、これで公に同園と手が切れ、本音では非常に安堵していると推察している。長崎IRへの協力体制を敷いていた福岡財界が、本件から事実上逃避するという重要な転換を行ったのだ。

 2つ目は、とくに最重要項目の「日米経済安全保障問題」である。すなわち、当該地佐世保市という地勢学上の立地と、その歴史による国際情勢に関する大変な彼らの認識不足である。すでに解説しているように、米中の覇権争い、ロシアのウクライナ侵攻、緊迫する台湾有事に関する中国習近平政権の姿勢から来る危機管理と我が国の国防問題なのである。

 これを当該地佐世保市の行政のトップであり、政治家でもある首長がこともあろうに「中国香港の中華系企業が同園の施設所有者になっても…長崎IRに一切影響しない」と、とんでもない発言をしたのである。解説するまでもなく、お粗末極まりない。

佐世保は海防の要で重要な軍港

 同市は明治20年(1887年)、我が国の海防に関する西の要「佐世保海軍鎮守府」が置かれたのが始まりで、そこから経済と文化が発展してきた。同鎮守府歴代の司令長官には日露戦争でロシアのバルチック艦隊を破った歴史的に著名な東郷平八郎中将や終戦時の米内光政中将などがいる(海上自衛隊基地内の資料館訪問をお勧めする)。現在でも、同地は重要な米国海軍の軍港でもあり、海上自衛隊にとっても大変重要な日米の海防基地であることに変わりはない。

 重ねて解説するが、太平洋戦争開戦時のハワイ・パールハーバー奇襲の帝国海軍暗号令「ニイタカヤマノボレ」を発信した針尾の無線塔(ハウステンボス隣接地)の話は有名であり、現在も海上保安庁の無線送信に利用されている。もし、台湾有事でも起これば、日米両軍の最前線基地となることは明白なのである。

 長崎県知事も佐世保市長も、さらに、両行政に県議会に市議会も、何を考えているのか。地元マスコミもお粗末過ぎて、筆者は彼らを大変な「平和ボケ」だと痛烈に批判する。近年、中国習近平政権による台湾有事が起こる可能性はある。毎日のようにこれらを報道しているではないか。なぜ、こんなことがわからないのか。

 今回のハウステンボス売却・転売話の買収予定者は中国・香港に本社を置く「PAG」として、地元マスコミも承知している。このオーナーはWaijian Shan(1954年生まれ)という中国・北京生まれ、北京大学卒業の中国共産党に近い世界的に著名な人物だというではないか。しかし、本件はそれらの真実性の問題ではない。

 問題は、平和ボケから来る日米経済安全保障分野のインテリジェンス(諜報活動)における脆弱さだ。前述の太平洋戦争開戦時も、その数年前からハワイ在住の日系人による奇襲作戦に関する事前の極秘調査が行われ、詳しく調査・報告をしているのだ。米国は現在も同様に行っているはずだ。こんなことなど起こるはずはないと考えているなら、すぐにでも政治家などは辞めるべきである。

 現在の国際情勢はファーウェイ問題と同様で、現在の西側諸国では日々、安全保障問題が論議され、ますます厳しい環境となっているのだ。従って、当該地の首長や議会に必要なのは、IRに固執することではなく、自らの立場の保全を優先することでもない。早急に、これらを懸念し、阻止することこそ、政治の重要な役目ではないか。

 中国・香港の企業群と中国政府とのつながりの真実はともかく、リスク回避に危機管理が最優先の課題であることに間違いはないのである。本件プロジェクトへの参加に、中華系企業には一切のチャンスはない。

【青木 義彦】

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