2024年09月16日( 月 )

「アイランドシティ完売」が示す、福岡市の都市力

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 福岡市は26日、今年6月から公募していたアイランドシティみなとづくりエリア「2.7ha 区画」の分譲予定者が決定したと発表。これにより、まちづくりエリアも含めたアイランドシティの分譲地は完売となった。

 今回の区画の分譲予定者となったのは、西日本鉄道(株)を代表とし、日本貨物鉄道(株)(JR貨物)で構成されるグループ。主な使用目的は倉庫・配送センター用地等となっており、延床面積7万9,045m2の6階建ての倉庫1棟を建てる計画で、分譲予定価格は62億2,878万3,222円。今後は基盤整備の進捗に合わせて2026年度に土地売買契約を締結し、土地処分議案の福岡市議会への提出および議決を経て土地が引き渡される予定で、その後に着工。操業開始は29年4月を予定している。

 アイランドシティ整備事業は、1994年7月に埋め立て工事が着工したことでスタート。同整備事業では、南北に走る臨港道路アイランドシティ1号線を境に、西側が埠頭用地や港湾関連用地などで構成される約209.5haの「みなとづくりエリア」(みなと香椎地区)、東側が住宅地や産業用地および公園などで構成される約191.8haの「まちづくりエリア」(香椎照葉地区)と、島の東側と西側で異なる開発が進められた。2002年には島内の道路が一部開通し、03年には国際コンテナターミナルが供用開始したほか、みなとづくりエリアに民間企業(物流施設)が進出。05年12月には、まちづくりエリアである「照葉のまち」の住居への入居開始によって、まちびらきを迎えた。

 こうして整備事業が進んでいったアイランドシティだが、その一方で当初はアクセスの悪さなどから分譲地の売却が難航。12年3月時点で福岡市が試算していた事業収支は、160億円の赤字の見通しだった。

 その後、アイランドシティ内の施設・機能の充実、21年3月に開通した福岡高速6号線・臨港道路アイランドシティ3号線(通称:アイランドシティ線)をはじめとした道路インフラ整備などの進行で、事業用地としてのアイランドシティの評価が上がるとともに、近年の物流用地の需要の高まりも受けたことで、今回の完売へと漕ぎ着けた。

 最終的な事業収支については、分譲収入の増加などにより約150億円の黒字となる見込みとなっている。前述の12年3月時点での収支見込み(約160億円の赤字)からは約310億円の改善となっており、改めて福岡市の都市力の高まりが感じられる。

アイランドシティ(提供:福岡市港湾局)
アイランドシティ(提供:福岡市港湾局)

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 福岡市におけるアイランドシティ以外での臨海部の大規模開発として、真っ先に思い当たるのは、「福岡タワー」や「福岡PayPayドーム」「ヒルトン福岡シーホーク」など、福岡のシンボルが集まる市街地西部のウォーターフロント開発地区「シーサイドももち」だろう。

 同地はもともと1950年代の半ばごろまでは、大勢の海水浴客で賑わう、市民憩いの場であった。そこに大きな転機が訪れたのは80年代に入ってからで、福岡市の市制施行100周年の記念イベントとして89年に開催された「アジア太平洋博覧会」(通称:よかトピア)のために、81年から約140haの埋立事業がスタート。88年ごろまでには埋め立てが完了し、よかトピアのモニュメントであった福岡タワーを始め、各種パビリオンが建設されるとともに、周辺道路などのインフラ整備も併せて進められ、現在の「シーサイドももち」の原型が誕生していった。

 その後、よかトピアの跡地は百道浜エリアと地行浜エリアとに分かれ、住宅地や商業地、公園などに転用する再整備が進行。当初は土地の販売も難航したと聞かれるが、このときは折しもバブル経済期だったことが後押しするかたちで販売が進み、最終的に同エリアは、高級住宅街やIT企業が集積し、福岡タワーやドーム球場を擁する福岡の先駆的なエリアへと生まれ変わり、現在に至っている。

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 改めて、今回のアイランドシティの場合は、94年の着工からバブル崩壊やリーマン・ショックといった景気の低迷期を経て、28年間を費やしての完売となった。

 その間、福岡市の人口は2013年5月に150万人を突破。現在も依然として増加傾向で推移しており、22年8月1日現在で162万9,837人となっている。人口の多さ=都市の力という単純な計算式が成り立つものでもないが、福岡市においては外からの流入人口の多さが都市の活力を生み出す源泉となっていることも、また否定できない。160万人を超える人口がもたらす経済活動は、市内のみならず近隣の福岡都市圏全体にも波及効果をおよぼしており、とくに近隣自治体の高速IC近くなどでは、物流拠点や工場施設などの開発も誘発している。市内外の都市圏各地で旺盛に行われている住宅開発なども、その1つだ。

 こうした状況下で報じられたのが、今回のアイランドシティ完売のニュースだ。これは、単に一地方都市の開発プロジェクトに一区切りが付いたことを知らせるだけのものに過ぎないが、見方を変えれば、福岡の都市力の高まりを端的に示す象徴的な事象だといってもいいだろう。

 ただし、完売が報じられても、アイランドシティの整備はまだまだ完成したわけではない。今回の西鉄グループの物流施設をはじめ、みなとづくりエリアでは企業各社による施設整備が進んでいく一方で、まちづくりエリアでも新たな住宅地の整備が着々と進んでいる。
 今後、アイランドシティ全体の整備が進むことによる、福岡市の発展へのさらなる寄与に期待したい。

【坂田 憲治】

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