2024年07月17日( 水 )

日本株に蓄えられた大きな反発力(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は9月5日号の武者陵司代表の講演録「日本株に蓄えられた大きな反発力 ( = 2つの価格差)」を紹介する。

 世界的なインフレが進行し、かつてない円安が起こっているのに日銀は無策であり、世界で唯一日銀だけがYCC(イールドカーブコントロール)という超金融緩和を放置している。そういう非難がしばしば聞こえる。しかし、日銀の超金融緩和策維持には無策どころか、経済復活の推進力を醸成する明確な意図がある。推進力とは、できる限り価格差を大きくし、市場変化の圧力を蓄え続けるということである。日銀の辛抱強い超金融緩和維持のおかげで、現在の日本経済に空前といってもよい価格差が現出している。高低差が水流を引き起こし、その水圧が地形を形作っていくように、経済や金融市場においては、価格差こそが市場取引を活発化し経済活力もたらす。価格の低いところに需要と投資が流れ、そこから成長が始まるのである。

空前の割安さ(=逆内外価格差)

 今日本が直面している第一の価格差は、空前の逆内外価格差である。購買力の国際比較によく用いられるマクドナルドのビックマックの価格を主要国と比べると、2022年の今日、日本は390円とスイス(920円)、米国(710円)のほぼ半分、ドイツ、イギリスはもとより、韓国、中国、ベトナムよりも安くなっている。翻って27年前の1995年を振り返ると、日本のビックマック価格は390円と米国(200円)、英国(240円)、ドイツ(290円)を凌駕し、スイスを除き世界最高であった。過去30年の間に日本は世界最高の高物価国から、最低水準の低物価国へと変わったのである。

 世界の平均物価との比較を意味する円の実質実効レート(2010=100)を見ると、1972年に65であった日本円は、1995年には150と2倍以上に上昇してピークを付け、2022年には58と最高値に比べて4割以下の水準に低下した。超円高から超円安へと、円レートがほかに類例のないほど大きくスイングしたために引き起こされたものである。

図表1: ビックマック価格国際比較(1995年➡2022年)と値上がり倍率

低物価国日本への世界需要集中始まる

 この空前の物価格差により、低物価国日本へと世界の需要が大きく集まり始めている。まず輸出競争力が高まり輸出数量が増加しはじめる。また輸入品の国内製品への代替が起きる。コロナ禍終息の暁には、おトク感の増した日本旅行需要が急増するだろう。割安になった日本で商品を調達し、それを海外へと転売する越境EC(Eコマース)が活況を呈しているが、この日本への需要集中はまだ始まったばかりで、これが奔流のように力を増していくことは疑いない。日本はスマホ、PC、半導体などで大きくシェアを失ったが、広範な材料、部品、装置などのブラックボックス化できる部分で高い技術競争力をもっている。一方、ダボス会議を主宰するWEFの調査によれば、日本の観光開発力は世界最高となっている。この高品質(非価格競争力)に価格競争力が加わることの大きな力を軽視すべきではない。

図表2~5

過去最高利益と設備投資20年振りの増加へ

 大幅な円安は、輸出主体の製造業や海外展開をしている企業の為替換算益を増やし、企業収益増加をもたらしている。2022年4~6月法人企業経常利益は、17%増、経常利益率は8.4%といずれも過去最高となった。

図表6: 法人企業経常利益率推移

(つづく)

(後)

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