2024年11月23日( 土 )

尖閣諸島問題と日中関係の今後 「海を介した平和」の実現(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

 日本政府はウクライナ危機をもたらしているロシアの軍事侵攻に関連するかたちで、尖閣諸島問題への対応をより明確に国際社会に訴えるべきとの考えを打ち出しています。中国の動きを念頭に置いたものです。自民党内に、ウクライナ危機が「台湾有事」に飛び火する可能性が高いと受け止め、「備えが欠かせない」との見方が広がっているためでもあります。不測の事態を避けるために、日中間で求められる取り組みについて考えたいと思います。

危機感煽る高市政調会長

 岸田文雄首相はことあるごとに、中国海警船による沖縄県・尖閣諸島周辺で繰り返される領海侵入に触れ、国際社会が直面するさまざまな課題は「力ではなく、法やルールによって解決されなければならない」と訴えています。

 自民党の高市早苗政調会長も、尖閣諸島に関しては「日本政府が施政権を明示し、中国に対抗すべき」と主張。そのうえで、「実効的に日本の領土だと示す工作物の設置や、日本の施政権がおよぶと明確に示すかたちをつくることが非常に大事だ」とも発言し、話題となりました。

 さらに高市政調会長は、ロシアが不法占拠する北方領土や、韓国が警備隊を常駐させている島根県竹島の事例を挙げ、「領土の奪還は憲法で認められていない。取られたら、もう終わりだ」とも発言。以前から対中強硬派として、安倍元首相とタッグを組み、「日本初の女性首相を目指す」と豪語する彼女の歯に衣着せぬ物言いであり、党内の保守派議員からは同調する声が盛んに聞こえてきます。

 高市政調会長は今回のウクライナ危機について、「ロシアと中国が連携しかねない状態をもたらしており、何としてもアメリカとの関係を強化して、中国の動きを封じ込めるチャンスとすべき」と捉えているようです。そうした危機感を煽り、尖閣諸島の実効支配に向けた示威行動の先頭に立とうという姿勢を見せることで、「強いリーダー」を演出しているように思えます。高市政調会長は自民党総裁選に立候補した際にも、中国脅威論を唱え、中国の「国防動員法」や「国防法」の脅威を訴えたものです。

 実は、冨澤暉元陸上幕僚長も同様の見方を繰り出しています。いわく、「魚釣島に日の丸を掲げれば、施政権の示威としては非常に効果的で、後々裁判になった際にも有利。監視兵が常駐するようになればなおよい。施政権継続のためには、かつて米軍が使っていた久場島や大正島の射爆撃場を米軍とともに再稼働させ、また船泊まりを整備するなどの示威活動も重要になる」。

漂着ごみの回収問題も浮上

東シナ海 イメージ    尖閣諸島については“漂着ごみ”の回収問題も関心を呼ぶようになってきました。沖縄県石垣市などが実施した周辺海域における海洋環境調査の結果が影響しているものと思われます。この調査は石垣市(中山義隆市長)の委託を受け、東海大学海洋学部の山田吉彦教授らが同大学所有の海洋調査研修船『望星丸』を利用して行ったものです。

 実施されたのは今年1月30日で、10年ぶりの尖閣諸島の調査でした。その結果、離島周辺の生物や漂流ごみの実態が明らかになったわけです。当初は島への上陸調査を計画していましたが、所有者である国の許可が下りず、海洋調査のみが行われました。当初、島には2頭のヤギが生息していたのですが、現在では1,000頭まで増えているようです。また、土壌の崩落も見られ、その結果、ミネラル分が海中に放出され、豊かな漁場になっていることが確認されました。

 この調査が実施されている間、中国の海警船2隻が調査を妨害しようとし、無線などで「退去要求」を繰り返したようですが、海上保安庁の巡視船8隻が『望星丸』を警護し、離れた海域では海上自衛隊も待機していたため、目立った問題は発生しなかった模様です。そうして得られた現地調査の結果から、水質や漂着ごみの実態が把握されたわけです。

 この調査結果は国会でも議論されました。答弁に立った山口壯環境大臣は、「海岸に漂着したごみは、良好な景観あるいは海洋環境に悪影響をおよぼすことから、海岸漂着物処理推進法に基づき、海岸管理者がその処理のために必要な措置を講じること、あるいは土地の占有者が清潔の保持に努めること、とされている」と説明しました。

 加えて、同大臣は「尖閣諸島に関しては、この海岸法に基づく海岸管理者が定められていない。現状では海上保安庁、財務省、防衛省が占有する土地となっている。その意味で、尖閣諸島における漂着ごみを回収するためには上陸しなくてはならないが、この尖閣諸島および周辺海域の安定的な維持管理という目的のため、原則として政府関係者を除き何人も上陸を認めないという政府方針を踏まえた対応となる」と慎重な発言に終始したものです。
 要は、尖閣諸島における漂着ごみの処理に関しては、具体的な対応策は未定というわけです。岸田首相の答弁は「環境大臣が答えた政府の方針に基づき、政府としての取り組みについて考えていきたい」という曖昧なものでした。

 これは、今年が日中国交正常化50周年という節目の年であることも踏まえ、中国をいたずらに刺激しないという観点からの答弁と思われます。外務省とすれば、林芳正大臣の下、中国との軋轢を過熱させるような動きには慎重にならざるを得ないわけです。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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