五輪汚職問題の渦中で再考、ブラックボランティアは?~読者プレゼント
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本間龍『ブラックボランティア』(KADOKAWA、2018年)は、大手メディアもジャーナリストも扱うことができなかった闇に切り込んでいる。
主題となっているのは、日本五輪委員会(JOC)や大手広告代理店をはじめとする五輪関係組織の、権威主義的かつ閉鎖的な体質である。そのなかでも、本書で強く問題視されているのは、組織委員会が安っぽい「やりがい」を謳い、多数のボランティアをかき集めたことだ。
本間氏は、五輪のボランティアの実態は「ボランティア」という言葉がもつ本来の意味からかけ離れた無償「労働」であり、応募条件にも、使役者目線の文言が並んでいると述べる。
「8時間労働を10日間以上できる方」という応募条件に猜疑心すら抱かない純粋な大学生などを狙い、耳障りの良い言葉を投げかけてボランティアを集めていたという。筆者も、このボランティア募集が掲載されたときは大学生であったため、そのような甘い言葉に乗せられる気持ちはわからなくはなく、いわゆる「意識高い系」と呼ばれる層との親和性も感じている。しかし、組織委は遠方からの参加でも交通費や宿泊費を出さず、猛暑のなか拘束しており、度を越えていると感じた(後に、交通費は1日1,000円まで支給するようになった)。本書では、「ボランティアはタダで使える都合の良い労働力」という認識が組織委員会に定着していると主張されている。
五輪は紛れもなく商業イベントであるが、たしかに、「公益事業」や「社会貢献」というイメージを纏いやすい。企業にとってみても、「五輪に協賛している」といえるだけで値千金だろう。どの立場からも批判されにくいイベントだ。本間氏は、組織委員会は新聞社をはじめとするマスメディアと強いつながりをもつと述べており、五輪批判は電通批判と同義ともいえよう。
本書は、皆が批判を躊躇する、ある意味「禁忌」に足を踏み込んだ一冊である。皮肉なことに、出版社はKADOKAWA。出版は2018年だが、現在の五輪汚職問題により明るみに出た組織体制の問題を早くから告発していたかのような一冊だと思えた。事実、五輪はほぼ本書通りの組織体制のまま、突っ走るかたちで開催された。五輪というイベント自体は平和の象徴であり、出場する選手たちは私たちに感動を与えてくれるが、かたや組織委員会は利権にまみれ、欺瞞に満ちていることをよく教えてくれる。
五輪自体の存在意義が問われている今、必読の一冊である。
【吉村 直紘】
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