尖閣諸島問題と日中関係の今後 「海を介した平和」の実現(中)
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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸日本政府はウクライナ危機をもたらしているロシアの軍事侵攻に関連するかたちで、尖閣諸島問題への対応をより明確に国際社会に訴えるべきとの考えを打ち出しています。中国の動きを念頭に置いたものです。自民党内に、ウクライナ危機が「台湾有事」に飛び火する可能性が高いと受け止め、「備えが欠かせない」との見方が広がっているためでもあります。不測の事態を避けるために、日中間で求められる取り組みについて考えたいと思います。
中国による台湾進攻の可能性
一方、昨年10月、台湾の邱国正国防部長は「中国が2025年には台湾への全面侵略が可能になる」との認識を明らかにしました。アメリカの上院軍事委員会や下院の同委員会においても「2027年までに侵攻の可能性がある」との指摘が相次いでいます。
岩田清文元陸上幕僚長によれば、「27年は習近平国家主席の4期目再選の年であり、中国人民解放軍建軍100周年にあたる。もし中国が台湾に軍事侵攻した場合、台湾から100kmしか離れていない与那国島をはじめ、日本列島に何が起きるか。備えを怠るわけにはいかない」ことになります。
昨年11月には自衛隊の航空幕僚監部が、米空軍と尖閣諸島周辺の北方空海域において共同訓練を実施したと発表しました。防衛省は制服組トップの山崎幸二統合幕僚長と米インド太平洋軍のアキリーノ司令官が那覇基地、与那国駐屯地などを訪問したことも公表。これは尖閣の領有権を主張する中国をけん制することを狙ったものです。アメリカの唱える中国脅威論に日本も積極的に関与していると言わざるを得ません。
日本政府は広報活動に注力
こうした日米協力による尖閣諸島防衛の動きをより具体化するため、日本政府は巡視船、航空機などの配備を進めています。25年度までに巡視船などが20隻、有人航空機が17機配備される予定です。これらに加え、海保では22年度予算概算要求で無操縦者航空機(シーガーディアン)1機を要求。これはいわゆる大型ドローンで、地上のコントロール施設から衛星を介した無線などにより遠隔操縦ができて、24時間以上の昼夜を問わない広域の監視警戒が可能になるとのことです。
日米間で尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲であることが再確認されているため、日本政府は「中国は平時でも有事でもないグレーゾーンの事態における行動を模索し、海保や自衛隊が最初に武力行使を行ったと主張できる状況をつくろうとする」との分析を重ねています。そのような状況を防ぐため、海上保安庁法第25条の存在を国際的に広く発信し、海保はその機能が法執行活動に限定された文民の警察機関であることを周知させる広報に力を入れる考えのようです。
また、同様の観点から、海保と自衛隊の連携強化の方策として、海保の準軍事組織化、巡視警戒を自衛隊の任務に追加、海保と自衛隊の合同訓練の強化といった案が検討の俎上に上っています。そうすることで、海保が仮に武器の使用に至った場合でも、法執行活動における武器の使用であるとの推定が働くようにするという発想にほかなりません。
と同時に、日本政府は自衛隊の海上警備行動についても法執行活動であることを国際的に周知させる必要があるとしています。元海上保安庁警備救難監の向田昌幸氏によれば、「海保体制は2016年12月に決定された海上保安体制強化方針に基づいて継続されているが、その主要部分を尖閣問題への対応に充当せざるを得ない。そのため、全国的な業務執行体制は人員、装備とも不十分である」とのこと。
また、尖閣諸島周辺における中国人や台湾人に関する事案に対応するうえでも、中国側にもこうした日本政府の海上警備行動について説明し、理解を促すことも検討されています。日中は世界で1位、2位を争う最大規模の海上警察機関を有していることは間違いありません。そのため、日本とすれば、中国の海警法を過剰に評価し、過剰に反応することは国益に合致しないと受け止めているわけです。
(つづく)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連キーワード
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