2024年09月04日( 水 )

利にさとい学者政商・竹中平蔵氏が「嫌われる」ワケ(前)

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 政商とは、政府や政治家と特殊な関係をもって、利権を得ている商人(「広辞苑」)。表向きは学者を装いながら、政府の諮問会議に入り込み、「利権漁り」を生業とする人物を学者政商という。学者政商として大活躍をしていた竹中平蔵氏(慶應義塾大学名誉教授)が、いよいよ黄昏を迎えた。学者政商・竹中氏の手口を振り返ってみよう。

勝海舟の名言「行蔵は我に存す、毀誉は他人の主張」

「行蔵は我に存す、毀誉は他人の主張、我に与からず我に関せずと存候」

 この名言は、勝海舟が福沢諭吉にあてた手紙の一節である。
 福沢諭吉は、明治25年、明治維新後の勝海舟と榎本武揚を批判する『痩我慢(やせがまん)の説』と題した草稿を2人に送り、返答を求めた。福沢諭吉は、勝海舟と榎本武揚がもともと幕府側で重要な役職にいたにもかかわらず、明治政府の要職に就いたことを武士道の精神に反する振る舞いとして痛烈に批判。明治34年、この『痩我慢の説』は、福沢諭吉が主催する『時事新報』で公表され、多くの議論を巻き起こした。

 内容についての返答を求められた勝海舟が、福沢諭吉に返信した手紙が、冒頭の言葉だ。
 「行蔵」は出処進退の意。文をひらたくいうと、「自分の出処進退は自分で決める。それをけなす、ほめるは他人がすること。私の知ったことではない」となる。

 世間に公表されれば「大炎上」必須の内容をつきつけられ、反論も弁明もせず、他人の主張は主張として、我が道をいく態度を見せた勝海舟の胆力と器の大きさを感じさせる言葉だ。自分と対立する人間への処し方、余裕すら感じさせる一線の画し方は、令和の御代のエリートたちにはなかなか真似ができるものではない。

パソナグループ会長とオリックス取締役を退任

労働者 イメージ    閣僚や政府の会議の委員を歴任して「構造改革」に取り組んだ竹中平蔵・慶應義塾大学名誉教授(71)が、人材サービス大手(株)パソナグループの会長を8月19日の定時株主総会で退任した。総合金融グループ、オリックス(株)の社外取締役も6月24日に退任した。SBIホールディングス(株)の社外取締役は続けている。

 竹中氏がパソナグループやオリックスから「お役御免」になったとネットでは大炎上。ブレーンを務めた安倍晋三元首相の襲撃事件の直後であり、東京五輪の利権は(株)電通とパソナが双璧とみなされていたから、さまざまな憶測が飛び交った。

 竹中平蔵氏は1951年、和歌山市生まれ。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行、大蔵省財政金融研究室主任研究官、ハーバード大客員准教授を勤めた。
 2001年から06年まで小泉純一郎内閣で経済財政政策担当相、金融担当相、郵政民営化担当相、総務相などを歴任。09年にパソナグループに天下ってからは政権とのパイプ役をはたした。

 13年1月、安倍晋三政権下で産業競争力会議のメンバーに。国家戦略特区の特区諮問会議メンバーに就任し、アベノミクスの「三本の矢」である大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長政策の立案に深く関わってきた。人材派遣などの規制緩和を推し進め、「その果実をパソナグループが独占してきた」(人材派遣業界の首脳)ことから、竹中氏は「政商」と呼ばれた。

竹中平蔵氏が「政商」と呼ばれることに釈明

 竹中氏は「政商」と呼ばれていることの釈明に追われた。
 竹中氏は「2ちゃんねる」開設者の西村博之氏との対談本『ひろゆきと考える竹中平蔵はなぜ嫌われるのか?』(集英社)を緊急出版した。ニュースメディア「ENCOUNT」(7月20日付)が竹中氏に”嫌われる理由”について直撃している。

 雇用に関する制度は1990年代後半以降に大きな変更があった。労働者派遣法の規制緩和で製造業への派遣が解禁された。パソナに限らず人材サービス会社は、雇用の規制緩和や公共サービスの民間委託の流れを受けて事業を拡大してきた。
 だが、労働市場の規制緩和の影響は、非正規雇用労働者の激増につながり、格差が拡大し、貧困化をもたらした。

 竹中氏は、こう言い逃れした。

 〈それはもう何回も何回も、100回以上説明していますけれども、これはもうみんな聞きたくない説明なんでしょうね。労働市場の改革はずっとやっているわけで、なおかつ、小泉内閣の時に1回やっていますけれども、それは製造業の派遣解禁でした。私は担当大臣じゃない。あれは厚生労働大臣ですから、私の仕事とは関係ないわけですよ。その時にたまたま内閣にいただけの話です。

 それでパソナがもうけたと言われていますが、これは誹謗中傷ですけれども、パソナは派遣そのものをやっていないのです〉

 この釈明は見苦しい。非難を受けた際にみせた勝海舟の胆力と器の大きさは微塵も感じられない。責任の逃れに汲々する小物ぶりをさらけ出している。

(つづく)

【森村 和男】

(中)

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