2024年12月23日( 月 )

体験と交流を促進する場へ 映画館が生き残る道(後)

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ミニシアターがはたす役割

中洲大洋映画劇場
中洲大洋映画劇場

    展開する劇場数で大手に劣る、地方の単館系映画館はどうか。福岡市内のミニシアター・中洲大洋映画劇場。福岡大空襲で焼け野原になった博多に娯楽をとの思いから、第二次大戦後の1946年に岡部重蔵氏が立ち上げた歴史ある映画館だ。

 コロナ禍では、1回目の緊急事態宣言発出後、5月末までの営業休止を決定。本来であればゴールディンウィークの映画商戦で一定の集客が見込める時期だったこともあり、苦渋の決断だったと思われる。

 ただ、劇場運営を手がける(株)大洋映画劇場は、テナントからの安定した家賃収入を得ている。1Fに入るパチンコホール・MJ博多からは月に400万円弱の家賃を徴収しているほか、那珂川沿いの大洋ビルを所有しており、大衆居食家しょうきなど、各テナントから家賃を得ている。2021年12月期は約1億5,000万円の売上高を計上し、最終利益も約500万円を確保。映画興行事業と家主業の両輪でコロナ禍を乗り越えられるか、注目される。

KBCシネマ
KBCシネマ

    同じ福岡市内のミニシアター・KBCシネマは、緊急事態宣言を受け感染拡大防止策として、週末営業を休止。その後、20年4月8日~5月21日までの間、休館を決定した。21年の緊急事態宣言下では、午後8時以降の上映を中止。コロナ陽性者が確認されたことによる臨時休館など、前年に引き続き思うように集客を行うことができなかった。

 劇場運営を手がけるは(株)ケービーシーメディア。21年3月期に12億9,900万円だった売上高は22年3月期には11億3,700万円まで減少し、2期連続の減収となった。KBCシネマ単体の売上高は約1億2,000万円と推察される。全体の1割程度で、中洲大洋劇場を少し下回る水準となっている。週末営業の休止や休館の決定による興行事業の不振もあり、22年3月期は1,043万円の最終赤字となっている。

ケービーシーメディア業績推移

 単館系の魅力は、大手シネコンでは上映されないようなマイナーな作品も取り上げてくれるところにある。特定の監督や地域に焦点をあてた作品群の一挙上映など、独自イベントの開催。劇場スタッフによる手づくりポスターやパネルが目を引く、自由度の高い空間演出もミニシアターならではといえる。多様な映画文化を育む地域の娯楽施設として、また、地域住民の交流拠点としての存在価値がミニシアターにはある。

台頭する動画配信と映画館

 収益を上げるため、劇場に足を運んでもらう必要がある映画館を尻目に、コロナ禍で台頭したのが動画配信サービスだ。代表的なのがNetflixで、20年には会員数が前年比で3,600万人以上増加し、全世界で2億人を超えている。コロナ禍で感染リスク低減のため“おうち時間”が増えたことも、潜在顧客の会員登録を後押しした。

 しかし、動画配信市場にはディズニー(Disney+)やワーナー・ブラザーズ(HBO Max)など、エンタメ界の巨人たちが続々と参入してきており、競争は激化の一途をたどっている。Netflixが22年に入り会員数が100万人以上減少する一方で、ディズニーの会員数は傘下のHuluなどを合わせると2億2,000万人を超え、Netflixを上回っている。盛況を博す動画配信市場だが、目の前には集中して視聴する時間を取れない「時間貧困」の問題が横たわっている。

 リモートでの学習や仕事に対応するオンラインツールの導入と利活用が必須となり、SNSなどプライベートで使用するアプリにも反応が求められる今、私たちは通知を意識しながらの生活が常となっている。本当の意味で気が休まる自由時間が確保しづらくなるなか、動画視聴の際の倍速視聴やスキップは当たり前になりつつある。Z世代の間では、10分の動画視聴でさえ長いと感じるという声が少なくない。こうなると、もはや映画というコンテンツ自体が余暇を過ごす際の選択肢に入らない事態も想定される。映画館はこのまま無用の長物となってしまうのだろうか。

 近年、映画館では登場人物に声援を送る「応援上映」や、スクリーンに音楽ライブや舞台の中継映像を流す「ライブ・ビューイング」など、鑑賞者に一体感を与えるサービスが増えている。静けさのなかで映画の世界観に没入するのではなく、同じ趣味嗜好をもった人たちと一緒に盛り上がる鑑賞スタイルの提案は、コト消費の側面を強化するものだ。こうした体験型映画鑑賞の拡充は、時間をかけてなぜわざわざ映画館へ行くのかという疑問への、1つの回答になるだろう。

 コロナ禍で人と人とのつながりが希薄化した今こそ、映画館は新たなコミュニティ形成の役割を担う場として存在感を発揮するチャンスだ。映画館は生き残るために、巨大スクリーン、高音質といった設備面での優位性で競うのではなく、社会的付加価値を自ら創出することで、動画配信サービスの利便性・独自性に対抗していかなければならない。

(了)

【代 源太朗】

(前)

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