鉄道事業の未来(4)
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運輸評論家 堀内 重人
2021年10月に発足した岸田内閣は、「新しい資本主義」を掲げた。その重要な柱の1つが、国が主導する「デジタル田園都市国家構想」である。同構想では、デジタル技術を活用して地方を活性化させることで、誰もが何処に住んでいても、豊かな暮らしを営むことができる社会の実現を目指している。
具体的には、光ファイバのユニバーサルサービス化、高速通信手段である5Gなどの早期展開、データセンターの首都圏以外への地方分散、日本周回の海底ケーブル「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」の整備などの施策を推進するという。
このような構想が打ち出されると、今後の鉄道事業の在り方も大きく変化する。その変化は大きく3つに分かることができる。1つが「デジタル化」、次が「観光立国」、そして「ドローンの活用」である。
ドローンの活用
ここまでは鉄道の旅客輸送を中心に解説してきたが、貨物輸送に関してはドローン(無人航空機)を活用した貨物輸送が実施される可能性が高い。
ドローンは、人工衛星を経由した電波のやり取りで操縦される。本来は軍事用であり、使途は限定されていた。
ところが最近、デジタル技術の進歩などもあり、民間に運行用の電波周波数の割り当てが決まった。デジタル技術の活用で、管理がしやすくなったと考えられる。将来、長距離を飛ぶ大型ドローンの商用利用が、一気に進む可能性が出てきた。
米国ではアマゾン・ドット・コムやウォルマート、Googleなどが、ドローンを活用した商品の配送を検討しており、連邦航空局(FAA)から試験飛行の許可をもらいたいとしているが、本来は軍事用であったドローンの宅配事業への活用には、連邦航空局は慎重な考えである。実際のサービス開始に向けては、同局と申請企業との間の調整が続くと見られている。
アマゾンなどが運用するドローンの性能は、上空の障害物を避けながら飛行でき、航続距離は25kmだという。米国では、高度は最高で約120mと日本より低く、約2kgまでの商品を30分以内で届けられるという。
日本でもドローンの活用が試みられている。千葉市は、2015年10月30日に内閣府の「国家戦略特区等における新たな措置に係る提案募集」に対し、幕張新都心地区におけるドローンを使った宅配サービス事業の提案を行った。
当時の安倍首相は、「自動走行、ドローン、健康医療(テレビ電話を活用した遠隔医療)は、安全性と利便性を両立できる有望分野だ」と述べた。規制緩和を加速させ、企業の研究開発などへの投資を増やし、経済成長につなげたいとした。
ドローンを使うことで、配達の時間を短縮し、人件費を減らすことが可能だが、日本でもドローンに対する規制は厳しかった。高さ150m以上の飛行や人口密集地では、飛行が禁止されているだけでなく、目視による監視も常時求められていた。ドローンを使った荷物の宅配は、航空法の規制緩和をともなう改正が必要と考えられていた。
事実、2015年に航空法が規制緩和されたことで、2020年4月に大分県は、津久見市の離島の無垢島まで、ドローンで医薬品を運ぶ実証実験を行っており、これが全国初のドローンによる一般用の医薬品配送であった。
それ以外では、ネット通販大手の楽天は、商品を過疎地に送るときにも活用するという。また(株)日本郵便は、2018年11月7日から、福島県南相馬市小高区の小高郵便局と浪江町の浪江郵便局間で、ドローンを使った荷物配送を始めた。これは東京電力福島第一発電所の原発事故が影響している。日本郵便だけでなく、(株)ローソンも同地区でドローンによる商品の配送サービスを実施しているという。
ドローンを活用した宅配便には、配達時間や人件費の削減に加え、外出の困難な子育て世代や高齢者など、利便性の向上に役立つという期待がある。
だが課題として、ドローンが操縦不能になった際の対処や荷物の落下の防止など安全面の配慮が必要である。これに関しては、ドローンには障害物を検知して回避したりするため、記録用カメラを搭載し、常時撮影する必要があるのだが、そこには関係のない人や物が映り込むことは避けられず、プライバシーの保護が課題になる。そして何よりも、ドローンに関する法整備が不可欠である。
鉄道貨物は、重厚長大産業向けの貨物を輸送するのに適しているが、一部は小包なども輸送している。JR貨物は、ターミナル駅から端末にかけてはトラック輸送を行っている。揮発油や産業用の大口貨物は直接着荷主に届けられるが、小包などの小口貨物は貨物取扱所で小分けされ、配送用の小型トラックでコンビニなどの各店舗や事業者、家庭へ配送される。
今後は、配送用のトラックの運転手の確保が困難になることが予想される。地球環境問題が厳しさを増していることから、一部は自転車による配送を行うと同時に、ドローンによる配送も実施される可能性がある。
現在のドローンの航続距離が25km程度であり、2kgの貨物を輸送する能力があることから、貨物取扱所から各事業所や各家庭などへは、ドローンによる配送が実施されるかもしれない。
そうなると現在は、貨物(小包)を受け取ると、受領書に印鑑を押して宅配の運転手さんに渡していたシステムが、E-mailなどで受領書が送られてきて、貨物を受け取ったときにメールを開くことで、受領確認になるかもしれない。
JR貨物は、荷主の貨物を保管する倉庫も所有しているが、貨物の管理にデジタル化が進むと同時に、現在はフォークリフトで行っている貨物の出し入れや移動などは、ドローンおよび無人運転車を活用して実施されると予想する。
2030年代に入ると、日本の鉄道業界も「デジタル技術の進展」や「観光立国構想の復活」「ドローンの活用」などにより、旅客・貨物ともに大きな変化が予想され、2020年代とは異なったシステムになっているだろう。
(了)
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