核戦争へ? 長期化するウクライナ戦争のさらなる危機(4)
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元国際基督教大学教授 高橋 一生 氏
ロシアのウクライナ侵攻が始まってまもなく8カ月になるが、今、私は初めて核戦争の危険を感じている。9月半ばに始まった危機は11月半ばから年末にかけて大きな山場になるように思える。その状況、そして、その先について考察する。
危機からの展望:日本の役割
このような状況で、ロシアの核使用の4条件のうち、ロシアが一方的に併合宣言した東部・南部4州さらにはクリミアに対するウクライナの反撃は「ロシア領土の侵犯」となると解釈し、残る「国家が存立の危機に瀕した」状況となるかどうかという状況が発生した場合、(1)プーチンのリアリスト・ロシア正教徒としての気質、(2)国内支持基盤、(3)中国と米国を中心とした国際環境という3つの視点から総合して判断することが必要になる。
(1)リアリスト・ロシア正教徒としての気質
そもそもプーチンが2月24日に特別軍事作戦を発動したのは、NATO地域とアジア・太平洋の中間にロシア帝国という戦略空間を構築する長期構想の第一歩、そのためにウクライナのNATO加盟を拒否するという防衛的口実を前面に出した行動であった。従ってウクライナの東部・南部4州の併合はそのための初動であり、その向こう側の地域のロシア併合を視野に入れているはずである。
プーチンの考えは、自国編入を目指す地域の住民は同じ正教徒であり、ロシア正教会傘下にとどまるべき、または戻るべきというものであり、ウクライナ西部の人たちに関しては新たに正教会に入るべきというものだ。リアリスト正教徒であるプーチンにとって、このような人々に対して核兵器による攻撃を行うことはハードルが非常に高いものだろう。都市・民間施設へのミサイル攻撃や占領軍の非人道的振る舞いによって、ウクライナ人が従来有していたロシアへの親近感は大きく損なわれている。
そのうえで戦術核を使用することは、正教徒間の心の連帯という、そもそもの軍事侵攻の目的を決定的に潰すことになるのが目に見えているはずだ。
(2)国内支持基盤
国民への情報統制のゆるみはすでに始まっており、年末にかけてこの状況はさらに進むであろう。そのような支持基盤が崩れる一歩手前という背景のもとに戦術核を使用すると、シロビキからの支持はおそらく高まるであろう。その限りにおいて、支持基盤の引き締めという効果はあるはずだ。
他方、プーチンを指示する大多数の国民にとって、ロシアが戦術核を使用することにより、NATOによって少なくともウクライナ東部・南部とクリミアへの総攻撃、さらに、もしかするとロシア領土への核攻撃が行われることになる。そうなると、一部の国民からのプーチン支持は強化されるが、おそらくより多くの国民の心は離れ始めるであろう。この状態が長続きするとシロビキの支持も割れ始めるに違いない。
政治のダイナミズムにおける引き潮の速さと力にはすさまじいものがある。とくに独裁政権においてこの傾向が顕著なのは歴史が示している。プーチン政権の崩壊も現実味を帯び始めるかもしれない。このロジックをプーチンが読めないはずはない。
(つづく)
<プロフィール>
高橋 一生(たかはし・かずお)
元国際基督教大学教授。国際基督教大学国際関係学科卒業。同大学院行政学研究科修了、米国・コロンビア大学大学院博士課程修了(ph.D.取得)。経済協力開発機構(OECD)、笹川平和財団、国際開発研究センター長を経て、2001年国際基督教大学教授。東京大学、国連大学、政策研究大学院大学客員教授、国際開発研究者協会会長を歴任。「アレキサンドリア図書館」顧問(初代理事)、「リベラルアーツ21」代表幹事、などを務める。
専攻は国際開発、平和構築論。主な著書に『国際開発の課題』、『激動の世界:紛争と開発』、訳書に『地球公共財の政治経済学』など多数。関連記事
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