【経済事件簿】「餃子の王将」社長射殺事件の見分と起訴までの難しさ
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警察関係者の事件摘発の敢闘精神に感服するが
今から9年前の2013年、京都市山科区の駐車場で民間人が何者かに射殺された。被害者は(株)王将フードサービスの大東隆行社長(当時72歳)である。
事件発生から9年後の22年10月28日、別の銃撃事件で福岡刑務所に服役中の、特定危険指定暴力団 工藤会系組織石田組本部長組員幹部の田中幸雄容疑者(56)を殺人と銃刀法違反の容疑で逮捕した。
逮捕当時の田中容疑者は、福岡市内で大手ゼネコン大林組社員が乗った車を銃撃したとして、18年6月に殺人未遂と銃刀法違反に問われ、懲役10年の実刑判決が確定し、福岡刑務所で服役中であった。
事件発生時の状況
2013年12月19日(木)午前5時45分頃、被害者が同社の本社駐車場に駐車した車から降りた直後、至近距離から25口径の小型拳銃で銃撃され胸部と腹部に計4発が命中し死亡した。
事件現場周辺の環境
銃撃事件が発生した同社がある周辺の立地環境は、JR東海道本線「山科駅」に対しても同「京都駅」へも車で僅か15分の距離である。
事件当初の捜査状況
事件発生直後の実況見分と鑑識活動により、遺留品は拳銃から発射された4発の弾丸の薬莢4個と、射殺現場の駐車場と近い建物の通路脇の位置に棄てられていたタバコの吸い殻であった。
逮捕に踏み切った証拠
遺留品と思われるタバコの吸い殻の付着物のDNA型が田中容疑者のものと一致した。また、とくにタバコの燃焼状況については、火災の専門家にこの吸い殻の鑑定を依頼した。
銃撃事件現場の路面が当時は雨で濡れており、その現場近くの通路も湿った路面だったと思われる。その湿った通路で火がついたタバコが棄てられて消された場合の吸い殻の消え方を、過去の研究データなどとも照合しながら詳細な鑑定を繰り返したところ、当時の濡れた路面で消されたタバコであると推定できるとして、これら科学的根拠を総合した鑑定結果により、田中容疑者と一致することが証明されたため、当時、田中容疑者が射殺現場にいたのは確実と判定できたことを証拠として逮捕に踏み切った。
だが、捜査関係者によると、被疑者と加害者との間には接点が確認されていない。
本事件と関係を推察できる背景
15年12月に暴力団組員が関与した疑いのある事件が報じられたことを受けて、王将フードサービスは反社会勢力との関係を調べるため、16年3月に第三者委員会を設置し調査を開始した。
その調査結果では、同社の創業家が1995年頃から2005年までの10年間に、特定の企業経営者と総額260億円にものぼる不適切な不動産取引などの関係を繰り返していた事実が発覚した。
王将側からは約200億円が流出しており、そのなかから約170億円が回収不能になったことを明らかにしている。
殺害された社長・大東氏が行った対応
2000年に同社の社長に就任した大東氏は、こうした不正取引の関係を解消し清算しようとして、13年11月に内部報告書をまとめて社内対策が取締役会で報告したが、当時は外部までには公表していなかった。
この一ヶ月後の13年12月19日に射殺事件が発生し殺害された。
田中幸雄容疑者が捜査線上に浮上した経緯
京都府警が着目していた1つが事件現場から走り去ったオートバイであった。
近隣に設置されていた数少ない防犯カメラ映像をリレー捜査の手法でたどり、14年4月に事件現場から約2km先のアパート駐輪場に放置されているホンダのスーパーカブのオートバイを発見した。
これは本事件発生の2カ月前に京都府城陽市内で盗まれていたものであった。
また、このアパート駐輪場の近くにはナンバープレートを付け替えたミニバイクも放置されていた。これも京都市伏見区の飲食店で盗まれており、この2台のオートバイは同じ日に盗まれていた。
そして、この飲食店の防犯カメラには、福岡県久留米ナンバーの軽乗用車から降りてきた者がバイクを盗む様子が映っていた。
この軽乗用車に盗んだオートバイを乗せて搬送したとみて、京都府警が車輌の所有者照会をしたところ、この所有者の交友関係を捜査するなかで田中容疑者が浮上した。所有者と田中容疑者とは同郷であった。
このオートバイのハンドルから拳銃を発砲した際に付着する硝煙反応が検出されているが、犯行当時、この2km圏内も警察は検索しているにも関わらず発見できていないことから、駐輪場に放置されていたのではなく、長期間、計画的に風雨が当たらない場所や状態で保管されていたことが判明している。
工藤会とは
福岡県北九州市小倉北区を本部とし全国唯一の特定危険指定暴力団に指定された。21年末時点で470人(構成員約250人、準構成員など約220人)。銃・対戦車用ロケットランチャー・手榴弾など殺傷力が高い凶器を使い、とくに暴力団排除に積極的な一般市民や企業等を攻撃対象にするなど、極めて悪質で凶悪な武闘派の暴力団犯罪組織である。
捜査協力態勢の強化
警察の威信をかけた事件捜査解決に向けて、今年9月以降は、京都府警、警察庁、福岡県警、検察当局が協議を重ね、専従の捜査員に加えて、過去に本事件の関連に携わった捜査員等々、京都府警山科警察署捜査本部に再召集し、捜査の協力態勢を強化している。
今後の捜査の鍵
今回、未解決になるとも噂されていた事件であったが、警察の執念による逮捕は、科学の鑑定による判定なくしてはできなかったのである。
つまり、これまで長期間に渡り捜査官たちの聞き込みなどさまざまな積み上げをしてきた9年間の成果なのであろうが、何よりタバコの吸い殻を科学の鑑定で判定できたことが、殺人と銃刀法違反容疑で身柄を京都府警捜査本部に移送するための逮捕状を裁判所に請求し逮捕できた証拠の、最も確実なものだったはずである。
報道関係者がずいぶん騒いだ、このたびの逮捕であるが、先ず福岡刑務所から京都府警に移送することが一番の目的の逮捕であったとしか思えない。
なぜならば、このたびのように田中容疑者を逮捕しても、先ずは起訴できなければ何もならない訳で、仮に起訴できたしても有罪にならなければ意味がないのである。
別の方向から考えると工藤会くらいの組織ならば、事実上、引き金を引いたのは別人で、田中容疑者は見届け役しかしていないかもしれない訳で、タバコの吸い殻が現場に落ちていたことも、プロのヒットマンとすれば、わざわざ物証となる遺留品を残しているのは不自然だと考える方が一般的であろう。つまり警察の捜査を混乱させるために、わざと棄てた可能性も考えられる。
分かり易く表現するならば、ただ移送してきただけの逮捕劇だった京都府警は、これから田中容疑者と忍耐強く向き合う本格的な捜査が、やっと9年かけて始めることができるようになったという状況なのである。
これからの捜査も厳しい道のり
巧妙で緻密に計画されているとうかがえるこの犯行から考えると、公判が維持できるだけの証拠となる供述の引き出しや、さらに新たな証拠が出なければ、本件は本丸での起訴に踏み切るのは、かなり厳しい道のりと推察する。
そもそも工藤会の組員は、絶対といえるほど口を割らないことに定評がある。武闘派暴力団組織の工藤会や田中容疑者の幹部組員側の立ち位置から考えれば、現在、京都府警に移送された田中容疑者は、殺人未遂と銃刀法違反で、求刑12 年、実刑10年で服役している立場なのである。
しかし残り6年だけと考えれば、彼らの世界では一般社会の常識とは異なり、僅か6年を我慢しさえすれば出所できると考えるであろう。
田中容疑者の立ち位置なら捜査官と普段の会話はしたとしても、本件に関係することは、仮に警察側から田中容疑者や工藤会にとって、よほどのメリットになる何らかの歩み寄りや交換条件の提示があったとしても信用しないはずで、それよりも刑務所で残りの6年間を我慢していればいいだけなので、絶対に本丸につながるような供述をすることや、新たな証拠を出すことなど、まったく考える必要がない立ち位置なのである。
つまり留置所の居心地さえ良ければ、逮捕され検察に送られるまでの期間や、勾留される期間が延長されようとも、彼にとっては何も苦労がなく、黙秘して時が過ぎるのを待つだけでいいと考えているとしても不思議ではないだろう。
現在56歳で6年後に出所しても、まだ62歳で組幹部としては現役といえる。
京都府警側は、やっと供述を引き出す取り調べができるスタートラインに立てたのであるから、事件発生から延べ26万1,200人の捜査官を投入した9年間で蓄積した捜査資料などを活用して追い込み、田中容疑者を起訴して公判が維持できるだけの迅速な捜査の展開を期待する。
【岡本 弘一】
法人名
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