2024年11月13日( 水 )

アビスパ、堂々のJ1残留決定 浦和1-1福岡

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最終戦でつかみ取ったJ1残留

 サッカーJ1リーグアビスパ福岡は5日、アウェーの埼玉スタジアム2002で浦和レッズと第34節の試合を行った。今シーズンのJ1リーグ戦、最終節の一戦となった。

 アビスパはこの試合に勝てば自力でのJ1残留、引き分け以下でも他会場の結果次第で残留となる大事な試合。対する浦和は、10月31日にリカルド・ロドリゲス監督の退任が決定。ACL圏内入りの可能性もなく、選手のモチベーションには差があるとみられた。

 試合はボールを保持しながら攻撃に出る浦和と、ブロックをつくってしっかり守備から入るアビスパという構図でスタート。浦和はパスをつないでアビスパ守備陣の攻略を図るが、アビスパはあわてず対応。GK村上昌謙の好セーブもあり、ほとんどピンチらしいピンチがないまま前半は終了した。

 後半、浦和は選手交代で状況の打開を図る。一気に攻勢に出た浦和は、56分にDF岩波拓也が豪快なロングシュートを放つと、無回転のボールは福岡GK村上昌謙のセーブもおよばずアビスパのゴールに突き刺さった。

 もし負けてしまうと、J2プレーオフの勝者との入れ替え戦に回る可能性もある。だが、ここで縮こまってしまわないのが今年のアビスパだ。直後の60分、まるで前節柏戦のリプレーのような状況が訪れる。後方からのロングボールをFWルキアンが落とし、FWフアンマ・デルガドへ。フアンマが右サイドに大きく展開すると、パスを受けたDF湯澤聖人が正確なアーリークロスを送り、走りこんでいたFWフアンマが浦和DFアレクサンダー・ショルツを制して鋭くヘディング。シュートは浦和GK西川周作の手をかいくぐってゴールに収まった。

 ホームの大観衆に最終戦で勝利を届けたい浦和、勝って残留を決めたいアビスパ、両チームの意地がぶつかり合った試合はこのままタイムアップ。アビスパは14位でシーズンを終え、最終節で残留に成功した。なお、自動降格圏の17位には札幌とのシーソーゲームで敗れた清水エスパルスが沈み、プレーオフ圏の16位はすでに最下位18位が確定しているジュビロ磐田に粘られた末に引き分けとなった京都サンガとなった。清水エスパルス、ジュビロ磐田の静岡県勢が揃ってJ2となるのはJリーグの歴史上初めて。

ホーム最終戦で、サポーターに感謝を伝える選手たち
ホーム最終戦で、サポーターに感謝を伝える選手たち

苦難のシーズンを越え、目指せJ1定着

 アビスパ福岡にとって、本当に苦しいシーズンだった。

 J1昇格をはたした昨シーズンは予想外の8位と躍進したが、他クラブに対策を講じられた今シーズンは開幕から苦しい戦いが続いた。リーグ戦の初勝利は第5節ガンバ大阪戦で、以降も上位クラブには力負けを喫する展開が続いた。

 その一方で、カップ戦では好成績を収める。ルヴァンカップでは、リーグ戦で出場機会が少ない選手たちを中心に勝ち抜き、準決勝に進出。天皇杯も準々決勝まで駒を進めた。「カップ戦ベスト8進出」という目標は見事に達成した。

 新型コロナウイルス流行による影響を、Jリーグで最も大きく受けたのはアビスパ福岡だったといっていいだろう。8月上旬にはチーム内に感染者が多数出たため、3日のルヴァンカップ・ヴィッセル神戸戦では控えメンバー4人というスクランブル体制で試合に臨み、GK山ノ井拓己がフィールドプレイヤーとして出場。6日に予定されていたガンバ大阪戦はエントリー可能な選手が最低限の13名に至らないため試合中止となった。

 試合開催が可能になって以降も、新型コロナウイルス感染症の影響は長くチームに残った。長谷部茂利監督は、後に「治った、となってもサッカー選手として90分フルに戦い続けるコンディションに戻るとは限らない」と語ったように、検査して陰性になったとしても起用できる状態に戻らない選手も少なくなかったようだ。

 さらに、ピッチ内外でのトラブルにも見舞われた。

 8月、北海道コンサドーレ札幌から期限付き移籍中だったDF柳貴博が酒気帯び運転で任意捜査を受け、契約解除となった。柳は事件発生までは貴重な戦力として活躍しており、2023年シーズンには完全移籍予定となっていた。ただでさえ新型コロナで起用できない選手が多いなかでのこの事態には、サポーターからも失望や怒りの声が漏れた。

 9月に行われた名古屋グランパス戦では、GK永石拓海とDF宮大樹が接触して倒れたが、主審がプレーをストップせず。そのまま名古屋がゴールを奪ったことに納得できなかったFWルキアンが、マナー上は相手に返すはずのスローインのボールをゴールに結びつける行動に出る

 両チームの選手たちは一触即発の険悪なムードになったが、長谷部監督は名古屋側に「ゴールを返す」よう指示してことなきを得た。このような状況に陥るとチーム内の雰囲気がギクシャクするものだが、そうならなかったのは長谷部監督が選手たちからリスペクトされていること、また選手間でのコミュニケーションが良好であることが理由だろう。

 同じ9月、横浜F・マリノス戦ではDF奈良竜樹のスライディングタックルで横浜FW西村拓真が負傷。SNSでは奈良本人や奈良の家族に対する誹謗中傷が続出し、奈良は心痛もあってしばらく試合出場から遠ざかる事態となった。

 万全の態勢で戦いたい、とアビスパに関わる人たちすべてが思ったことだろう。上に挙げたことはどれも、「あんなことがあったから、降格してもしかたなかった」と責任転嫁できる理由になり得るだけのことだ。

 だが、アビスパは置かれた状況でベストを尽くし、戦い抜いて堂々とJ1に残った。来シーズンは、3年連続J1で戦うこととなる。「5年周期」と自嘲していたのが、はるか昔のことのようだ。「J1定着は、最低3年」。2023年は、川森敬史社長がこう語っていた3年目になる。

 7日、長谷部茂利監督の契約更新が発表された。来シーズンを全うすれば、アビスパ福岡の監督として歴代最長となる。難しい今シーズンを戦い抜いた手腕を、ぜひ来シーズンも見せてほしい。

来季も指揮を執る、長谷部茂利監督
来季も指揮を執る、長谷部茂利監督

 これから来年2月のキャンプに向けて、現有選手の契約更新、新戦力の獲得とフロントスタッフは、さらなるハードワークが続く。どんな陣容で23年のJ1リーグに挑むことになるのか、今から楽しみだ。

 アビスパ福岡の選手、監督、コーチ、スタッフの皆さん。

 アビスパ福岡サポーターの皆さん。

 おめでとう!ありがとう!来年も、またJ1だ!

【深水 央】

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