2024年11月24日( 日 )

【東京五輪汚職】ADKHDの後任社長は電通出身、なぜ?(後)

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 東京五輪・パラリンピック汚職事件で、電通元専務の高橋治之・大会組織委員会元理事は収賄で4度目の逮捕となった。贈賄で逮捕された広告大手のADKホールディグス(HD)の後任社長は、なんと電通出身者。「おやおや」である。

広告世界大手WPPにADKは屈服

虎ノ門ヒルズ森タワー イメージ    業界を驚かす出来事が起きた。本社の虎の門への移転だ。2002年に銀座周辺に分散する子会社を集約するかたちで、中央区築地1丁目のADK松竹スクエアに本社を置いた。ところが、12年に移転を発表。14年6月、虎ノ門ヒルズ森タワーに移転した。ADKに移転しなければならない理由は1つもなかった。

 「WPPは、ADKが松竹スクエアに本社に構えている有利な条件から、ADKを廉価で購入し、売ろうと考えていたが、値段の折り合いがつかなかった」と業界では語られた。

 ADKがWPPに服従する転換点となったのが10年12月期決算。最終赤字に転落し、稲垣氏の後継者であった長沼孝一郎会長がグループCEO(最高経営責任者)を引責辞任した。

 WPPの意向が強くなる。11年12月期決算以来、異常な高配当を「フンパツ」してきた。それまで1株あたり年間配当額20円だったのが、11年期は特別配当を加算して109円の高配当。14年12月期に至っては、特別配当526円を実施し配当金は571円。配当性向(純利益から配当に回す割合)は30%程度が普通だが、14年期の配当性向は646.5%。稼いだ純利益の6.5倍の配当を支払った。

 WPPはADK株を1,033万株保有。ADKが11年期から16年期までに支払った1株あたりの配当金は1,280円。WPPは132億2,240万円を手にした。「これじゃ、ボッタクリバーだ」と驚きの声が挙がる。ADKは最終利益以上の金額を配当するために会社の資産を切り売り。仏ルノーに高額配当を吸い上げられた日産自動車(株)の広告業界版であった。

WPPとの提携の解消に踏み切る

 植野伸一氏は13年3月、ADKHDの前身であるADKの社長に就任した。1976年に同志社大学商学部を卒業後、当時の旭通信社(現・ADKHD)に入社し、主に営業畑を歩み、執行役員を経て、社長に昇格した。

 植野社長の最大の仕事は、WPPとの提携解消である。植野社長は「我々はWPPの子会社ではない。彼らが自らの利益を優先してくるところが大きかった」と、提携解消を決断した理由を明らかにした。異常な高額配当を指している。

 植野氏は社長に就任した翌14年からWPPとの資本提携に解消に向けて協議を進めてきたが、日本での足かがりを失いたくないWPPは首を縦に振らなかった。

 ADKは米投資ファンドのベインキャピタルを「白馬の騎士」に招いて、WPPの追放作戦に打って出た。ベインから非上場化スキームの提案を受けた。WPPとの契約には合意なしでも一方が通知すれば12カ月後に提携を終了できる取り決めがあり、強硬手段に踏み切った。

「失われた20年」で、デジタル化に遅れを取る

 17年12月7日、ベインキャピタルによるADKのTOB(株式公開買い付け)が成立した。全株式の87.05%がTOBに応募した。ADKとベインキャピタルは10月2日、15%のプレミアムを上乗せした1株3,660円でTOBを発表したが、当初、25%の株式を持つ筆頭株主のWPPや2位株主の運用会社が反対を表明。TOBの成立は不透明だったが、11月21日にWPPが一転、TOBに応じることでベインキャピタルと合意、成立に漕ぎつけた。18年3月、ADKは東証一部を上場廃止になり、非上場化した。

 ADKはWPPとの提携が足かせになり、自由に身動きが取れないまま時間を空費してきた。広告世界大手WPPの後ろ盾を得て、電通と博報堂を追撃する目算であったが、上位2社に大きく水を開けられた。

 広告業界は、(株)電通グループ(21年12月期の収益1兆855億円)、(株)博報堂DYホールディングス(22年3月期の収益8,950億円)、ネット広告の(株)サイバーエージェント(22年9月期売上高7,105億円)が上位3社。ADKは非上場したため財務諸表の開示はないが、上場廃止前の2017年の連結売上は3,528億円だった。

 広告業界はサイバーエージェントのようなネット専業の代理店が存在感を高め、電通をはじめとする従来勢力が軒並みシェアを奪われた。この間、デジタル化に遅れを取ったADKは、デジタル部門を強化するため、電通から大山氏をスカウトした。ADKの改革を主導してきた植野社長が五輪汚職で逮捕されたため、急遽、大山氏がマウンドに立った。

 ADKが目指す再上場計画に暗雲が漂う。

(了)

【森村 和男】

(前)

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