孤独からの脱出(後)
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「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)の常連客M女が救急搬送された。第111回で紹介した「ぐるり」最強の「困ったちゃん」である。後日判明したことだが、入浴中に足腰が立たなくなり、大声で助けを求めたという。M女はURの賃貸住宅の住人で、その階は空き室が多い。運良く階下の住人がその声を聞きつけ消防署に連絡。施錠してあり玄関扉からの救出ができない。救急隊員がはしご車を使いM女のベランダ側の窓ガラスを壊して救出した。現在も入院中で、おそらくそのまま施設に入所ということになるのだろう。
孤立化を防ぐさまざまなアイデア
高齢者の孤立を防ぐには話し相手がいることだろう。ところがこれが難しい。引きこもりがちな高齢者が、みずから話し相手を求めて出歩くことはほとんどない。「出会いの場」を通じて話し相手や友達をつくる。「ぐるり」もそのためにあると考えたい。つまり、行政や心ある人が率先して仕掛けるしかない。
興味深い記事(『朝日新聞』22年10月22日)を見つけた。神奈川県藤沢市で介護事業所を経営する加藤忠相(48)さんがアパートを買い取り改修。2階に大学生と10代の社会人が住み、1階に単身高齢者が住む。月1回、若い住人が隣接するカフェで高齢者とのお茶会に参加して交流する。こうしていくつかの条件を満たせば7万円の家賃が半額になる。高齢者の家賃は変わらないという仕組みだ。こうした多世代型のアパートで高齢者や子ども、障がい者などが集う「ごちゃまぜ」のスペースが注目されている。
栃木県大田原市の住宅街の空き家や空き店舗に、コミュニティスペースや地域食堂、シェアハウス、障がい者のグループホームなど6つの拠点をつくったのは、(一社)「えんがお」の濱野将行(31)さん。ハブになるコミュニティハウス「みんなの家」は、2階が勉強スペース。1階が高齢者と若者や子どもたちが気軽に交流できる地域サロンになっている。年間延べ3,000~4,000人の利用者があるというから驚きである。多世代が交流する「ごちゃまぜ」は高齢者も若い人もウィンウィンの関係が成り立つ。そこに思わぬ「化学反応」が生まれる。
10月初旬、横浜市戸塚区の「原宿地域ケアプラザ」で開催された「高齢者向けスマホ教室」は画期的だ。「これからはSNSなどのIT機器を使いこなし、世の中の多様性に対応するために必須」と明言した樋口恵子さんの姿勢とダブル。
コロナ禍で施設や自宅での介護に大きな弊害が生じている。「感染させたくない」という利用者家族や施設への気遣いから、近所や身内を遠ざけ、結果「孤独死」が増加している。
十分な介護ができずに孤立化する高齢の利用者。人手不足で十分な介護ができない。介護施設のなかには利用を制限するところもあると聞く。頼りたい施設や関係部署が疲弊してしまっては介護される側もする側も孤立してしまう。最近になって介護疲れを理由に身内を殺める事件が目に付き出した。
元競泳選手の荻野公介(28)さんは、極度の不振の原因がメンタルの不調にあることが判明し長期休養に入った。「スポーツでも受験でも『誰は誰よりも優れている』ということが求められる。見ている世界があまりにも小さすぎる。勝っても幸せなんかじゃないですから」(『朝日新聞』22年10月10日)と延べ、「一番しんどいのは孤独だと思う」と結んだ。
「困ったちゃん」のM女。まだ出られない病院のベッドで感じていることは‘孤独’だろう。自業自得と切り捨てるにはあまりにも可愛そうだ。しかし、「ぐるり」の見守り支援にも限界があることを理解していただきたいのだが…。
(了)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。関連キーワード
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