2024年12月23日( 月 )

「失うものは美しいもの」~パタゴニア辻井支社長が石木ダム反対訴え

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 長崎県と佐世保市が同県川棚町に計画している石木ダム建設を考えるシンポジウムが7月4日、同市のアルカスSASEBOで開かれ、アウトドア衣料メーカーのパタゴニア日本支社長の辻井隆行氏が特別講演した。辻井氏は、ダム建設計画地の川原(こうばる)地区など現地に月1回以上足を運んで、地元住民と意見交換するなど、ダム反対を支援してきた。パタゴニア日本支社は同ダム反対運動の全面支援を決定し、5月から佐世保市内で「ダムはほんとうに必要か皆で考えましょう」というラッピング広告したバスの運行を開始。同支社初の新聞全面広告「失うものは美しいもの」を出して、ダムが不要だと問いかけた。

講演する辻井隆行・パタゴニア日本支社長<

講演する辻井隆行・パタゴニア日本支社長

7月4日、長崎県佐世保市で開かれたシンポジウム「石木ダムの真実」<

7月4日、長崎県佐世保市で開かれたシンポジウム
「石木ダムの真実」

 辻井氏は、パタゴニアが長くビジネスをするうえで大切な仕組みとして、「環境に負荷の小さい素材」「人権に配慮した生産」にこだわっていると紹介。こだわりのある製品をつくって販売する先のミッション(使命)として、「ビジネスを使って、環境問題そのものを解決したいと思っている」「それが石木ダムに関わらせていただいている根底にある思いです」と語った。

 東京生まれ東京育ちの辻井氏は、ダム建設計画地の川原地区を訪れ、春の小川のような自然、日本のふるさとのような場所に接し、「これが日本の自然なんだ」と思ったという。
 「何かに反対することは、何かに賛成すること」という米国の環境活動家の言葉を引用して、石木ダムに反対することは、石木川の本来の姿に賛成している、生息している138種のレッドデータブックに載っている生き物に賛成している、ここに暮らす素晴らしい方々の暮らしに賛成している、「市民による民主主義」に賛成している、と述べた。
 最後に、「失うものは美しい」に込めた気持ちを、「何を失うのか、何を守ろうとしているのか。多くの人が参加でき話し合いができる場をつくって、全員にとって納得できるお金の使い方を市民が決める世論をこれから醸成していきたい」と結んだ。

合唱する川原地区の住民たち=7月4日、長崎県佐世保市<

合唱する川原地区の住民たち=7月4日、長崎県佐世保市

 川原地区には、13世帯約60人が住む。1971年に県が川棚町に予備調査を依頼して以来住民らは約40年間、ダム反対の看板を立て、監視塔や団結小屋を設置し、1982年の強制測量反対などダム反対の運動を続け、強制測量反対当時の小学生が結婚し親の世代になった。
 ダム建設計画地に住む岩下すみ子さんが「美しい山、村を破壊する必要があるのか」と問いかけ、住民約20人が「川原のうた」を合唱し、「ただ生まれ育ったこの土地に住み続けたいだけなのです。ダムの中止が決まったら、看板を撤去してそこに花を植えたい」と訴えた。

 シンポジウムは、ダム計画地の住民や市民団体「石木川まもり隊」らでつくる「石木ダムの真実を考える集会実行委員会」主催。ブックレット『石木ダムの真実 ホタルの里を押し潰すダムは要らない!』出版を記念して、同ダムの公共性について、行政を交えた討論を呼びかけるために開いた。約350人が参加した。同ブックレット執筆者の1人で、石木ダム対策弁護団の板井優弁護士が、同ダムの問題点と公共事業のあり方を講演した。

 長崎県は、中村法道知事が話し合いに1回応じたものの、ダム水没予定地の道路に代わる付け替え道路工事の強行や本体工事に必要な用地の強制収用の準備を進めている。

【山本 弘之】

 

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