大企業の相談役・顧問制度は「院政」の温床だ!(後)
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東芝は相談役が“闇将軍”として院政を敷く
2015年6月に企業統治の指針であるコーポレートガバナンスコードが導入された。これまで日本の企業に多かった内輪の論理ではなく、少数株主や外国人株主の平等性を確保するよう求めた。
外国人株主が目をつけたのが、終身雇用・年功序列の日本的経営の象徴である相談役・顧問制度。経営が悪化した(株)東芝が格好な攻撃材料になった。東芝は不正会計発覚前には17人の相談役や顧問がおり、こうした経営陣OBたちが経営に影響を与えた。指名委員会等設置会社であったにもかかわらず、相談役がトップ人事を仕切った。当時、東芝相談役で、日本郵政(株)社長を務めていた西室泰三氏である。
一相談役にすぎない西室氏が、“東芝の闇将軍”として君臨していた。東芝本社ビル38階の役員フロアには、社長、会長の執務室に加え、相談役の個室もあった。西室氏は、東芝の中興の祖、土光敏夫氏が使っていた部屋に居座り、社内では“スーパートップ”と呼ばれた。東芝は16年2月に、それまでの相談役・顧問制度を改革することを発表した。だが、批判の渦中にあった西室氏は相談役を退任したが、名誉顧問に横滑りした。
取締役ではなく、したがって経営責任がない相談役・顧問が「院政」を敷く。「相談役・顧問は百害あって一利なし」と批判を浴びせられることになる。経営陣の大半が内部昇進者で占める日本型経営
日本の大企業には、日本的な特殊性がある。経営陣の大半が内部昇進者で占められている点だ。どうしてこうなるのか。
法律上、会社は株主の所有物である。株主総会が会社の最高議決機関で、株主総会の決議に基づき、経営上の基本的な決定を下すのが取締役会。これを受託経営層という。CEO(最高経営責任者)とは、この取締役会の会長のこと。取締役会の決定に基づき、実際に会社を運営するのが執行経営層だ。社長がCOO(最高執行責任者)になる。
経営層は、日米では大きく異なる。米国の会社では、取締役会は株主の代表で構成される。つまり、取締役は社外取締役で占められる。取締役会から委託を受けた社長以下の執行役員が会社の経営にあたる。株主を代表するのが取締役会で、経営に当たるのが執行役員である。米国では、受託経営層と執行経営層がはっきり分かれている。これに対して日本の場合は受託経営層と執行役員層が一致している。株主総会で経営を委託された取締役が会社を運営し、経営者を兼ねる。「取締役社長」とは、受託経営層の取締役と執行経営層の社長を兼ねていることを指す。一人二役だ。だから、日本の取締役は内部昇進者が圧倒的に多い。
院政を可能にする先輩・後輩の関係
日本企業のなかで何十年も続く先輩後輩の関係は、血縁以上に濃い。自分を社長にしてくれた先輩OBにはまず刃向かわない。その結果、長老が権勢を振るうようになる。社長・会長を辞めた後、名誉会長、相談役、最高顧問に就任して君臨し続ける実力者は珍しくない。口では「社長に任せる」と言いながら、人事権は手放さない。
現役を退いた名誉会長、相談役、最高顧問に組織上の権限はない。権限はないから責任もない。それなのに、実際は無限の権限を持つ。責任はないのに権限だけがあるという奇妙な存在が長老だ。これを院政という。
院政を敷いて老害をまき散らすことを可能にしているのは、株主のチェック機能が働かないからだ。日本型の企業システムの欠陥に根ざしている。コーポレートガバナンスの強化が打ち出され、不祥事の再発防止の一環として、検事や弁護士、大学教授などの大物を社外取締役に迎える大企業が増えてきた。だが、これほど社外取締役の意味を曲解しているものはない。社外取締役はあくまでも株主の代弁者だ。社外取締役は、経営者の成果や業績をチェックする。業績を十分に上げない経営者は交代させる。それが社外取締役の役割だ。
社外取締役は、「百害あって一利なし」の相談役・顧問制度を廃止することが重要な仕事になる。しかし社外取締役が、自分は株主の代弁者だと認識しているかは疑わしい。日本版社外取締役制は「仏作って魂入れず」の典型例だ。かくして、相談役・顧問による「院政」が消滅することはないだろう。
(了)
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