2024年12月23日( 月 )

喫緊の企業戦略3つの大転換(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は11月21日号の「喫緊の企業戦略3つの大転換~円高デフレを克服した企業戦略から、円安インフレ下で勝つ戦略へ~」を紹介する。

 Q 武者リサーチは2023年が日本経済大転換の年であり、企業も戦略を抜本的に変更しなければいけない、と訴えています。

 武者 2023年こその大転換の年である、過去の成功体験に基づく経営戦略を大転換させないといけない。3つの転換が必要である。

図表1:喫緊の経営戦略の大転換(過去の否定)、ここが勝負

 Q 2023年は日本大復活への転機になる明るい年だ、と主張する根拠は。

 武者 急激な円安の定着により、経済の大きな枠組みが変わった。円高が原因となったデフレの時代が終わり、2023年日本経済はバブル崩壊後最も明るい数量景気の年となるだろう。円高で日本から海外に逃げて行った工場や資本、ビジネスチャンス、雇用が、円安によって日本に戻ってくる。米中対立も日本への工場回帰を加速させる。

 円安はまたインバウンドを急増させ外国人観光客が日本の津々浦々の地方内需を刺激する。極端に割安になった日本製品を個人や中小企業が購入し、インターネットを通して海外へと販売する越境EC(イーコマース)も急増している。

 このように安い物価国日本に、世界の需要が集中し、国内景気を活性化するだろう。すでに設備投資計画はバブル前も含めて過去最高水準の伸びを見せている。IMFは2023年は日本が先進国中最も高い成長率になる(日本1.6%、米国1.0%、ユーロ圏0.5%)と予測している。企業はこの数量景気の波に乗らなければならない。

 Q 円安により日本のコストが著しく割安になりました。これが定着すると見られるので、企業は円安の恩恵を受けられるよう、戦略を変えなければなりません。

 武者 日本企業は円高に対応して工場をコストの安い海外に移転させ、生き延びた。日本経済の名目GDPゼロ成長、ゼロ物価、ゼロ金利という長期停滞状況のなかでも、企業利益は大きく飛躍し、おかげで日本の将来に明るい展望を描くことができる。多くの競争力の強い企業が台頭しており、それらが日本経済をけん引してくれるだろう。この企業の収益力の向上は、ひとえに、企業の海外シフトが功を奏した結果である。

 しかし円安で日本のほうがコストが安くなるとすると、今度は国内で生産する体制に変えなければならない。グローバル供給体制(サプライチェーン)を抜本的に転換させなければならない。

図表2: 過去最高を更新している企業利益 (売上高経常利益率)/図表3: 製造業海外生産比率/図表4: 海外でのみ価値創造を増価させた日本企業 - 成長停止のGDP、成長続けたGNI (GDP+海外所得)

 Q 多くの企業経営者からは、今さら国内生産体制の構築は困難である。人が集まらない、技術者がいない、との嘆きが聞こえます。

 武者 いったん失われた生産体制の再構築は困難だが、それをやりきることが勝敗を分かつ。そのためには労働政策を根底から見直さなければならない。円高デフレ下での企業の労働政策は、コストの抑制にあった。円が2倍になったことで、日本人労働者の賃金を半分に引き下げないと競争できなくなり、賞与・残業代カット、工場の海外移転を推し進めた。

 図表5は企業における1人あたりの物的生産性、付加価値生産性、労働報酬の推移であるが、日本企業は世界的技術発展の恩恵を受け、物的生産性をそれなりに上昇させてきた。にもかかわらず、円高とデフレによる販売価格低下により、企業には生産性上昇の果実が残らず、付加価値生産性は横ばいであった。しかし労働報酬をそれ以上に抑制し、それによって企業利益が確保された、という連鎖が起きた。日本の実質賃金が過去30年間まったく上昇せず、デフレに陥ったが(図表6)、その起点は、円高下での企業の価格競争力維持の努力にあったといえる。

 しかしこれからは労働が価値の源泉であるという認識の転換が必要である。高い賃金を払ってでも良い人を採用し、モチベーションを高めて競争力のあるチームをつくらなければならない。労働はコストという認識から労働は価値の源泉という認識へと、発想の大転換が必要である。

図表5: 物的生産性・付加価値生産性と賃金推移/図表6: 実質賃金推移の国際比較

(つづく)

(後)

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