2024年07月16日( 火 )

喫緊の企業戦略3つの大転換(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は11月21日号の「喫緊の企業戦略3つの大転換~円高デフレを克服した企業戦略から、円安インフレ下で勝つ戦略へ~」を紹介する。

 Q 企業の財務資本政策も大転換が必要だ、その柱が自社株買いによる高株価経営だとも主張しています。

 武者 バブル崩壊以降、日本企業は保守的財務戦略に徹してきた。借金を減らし、利益の社外流出を抑えて自己資本を厚くし、ひとたび危機が起きたときに備えるため財務クッションを著しく高めてきた。図表7は日米欧の上場企業のDebt to Equity レシオであるが、日本企業の極端な保守性が際立つ。このデレバレッジの財務戦略は、資本効率を無視し安全性のみにこだわったバランスを欠いたものになっている。今や低レバレッジ経営は株価低迷をもたらし買収されやすくなる一方、他企業の買収や新規分野への投資などの将来に対する布石を縛ることで、負けパターンの企業戦略といえる。

図表7: 日米欧上場企業の負債資本倍率 (D/Eレシオ)

 Q 今、日本株式は超割安なので、借金をして(または預金を下ろして)株を買うと大きな利益が得られます。このことは個人だけに限られたことではなく、企業にも同じチャンスがあるのですか。

 武者 今の日本は10年国債利回りが0.25%なので、投下資本を回収するのに400年かかると計算される。他方株式は益回り(1株利益/株価)が8%なので、投下資本を回収するのに12.5年で済む計算となる。ここから株式は債券に対して1対40という極端な割安状態にあることがわかる。この債券と株式の極端な価格差は、世界を見渡しても、日本の歴史を振り返っても、かつてなかったことである。債券を売った(または預金を下ろした)お金で株を買うことで、とてつもなく有利な運用が可能になっていることは説明するまでもない。

図表8: 極から極へと振れた株式対債券利回り/図表9: 日米家計の資産配分比較

 この株式の極端な割安さがもたらすチャンス(or格差をつけられるリスク)は、個人以上に、企業にとって大きいと考えられる。デレバレッジ経営(=高自己資本比率経営)とは、企業の資本調達においてコストが低いDebt(負債)が小さく、コストが著しく高いEquity(株式)の比重がとても高い財務構成である。Debtの比重を高め(=借金を行い)、Equity投資をする(=自社株を買う)ことで、大きな利益が得られる。仮に0.5%の利子で借金を行い自社株(配当率2.5%と仮定)買いを実施すれば、利回り差2%プラス節税効果により2.2%程度の差益が発生する。加えてROEが高まり需給が改善することで株価が上昇する。

 Q 2023年の日本経済にとって、最大のリスクはYCC(イールドカーブコントロール)によって0.25%に抑えられている金利が急上昇する可能性だ、と指摘されています。企業はどのように対応すればいいのでしょうか。財務上それはプラスにもなりえますか。

 武者 主要国に比べて著しく低く抑えられている日本の長期金利は、早晩上昇する。YCCには日銀が2%インフレ達成を実現して終える「勝ちの終焉」か、所期の目標を達成できないまま円安投機に堪えられなくなって終える「負けの終焉」か、の2通りがあるが、2023年にはどちらになるかがはっきりするだろう(武者リサーチは「勝ちの終焉」の可能性が極めて高い、と考えている)。この明白な金利上昇トレンドは対処次第で、プラスにもマイナスにもなる。今後金利が上昇すれば債務の元本時価が減価するのであるから、今借金を増やすべきである。

 また今株価が割安であれば、今後株価が上昇する可能性が大きく、取得した株式の価値が上昇するのであるから株式投資を増やすべきである。企業にとって自社株買いは最も有利な株式投資ともいえるのである、と強調したい。多くの企業が武者リサーチの見解に賛同すれば、すでに2022年に10兆円に迫ろうとしている企業の自社株買いがさらに大きく増加し、2023年の日本の株価上昇に弾みをつけるだろう。今の低金利、低株価を利用したリレバレッジは大きな財務利益を企業に与えるものになる。

図表10: Debt financeかEquity financeか/図表11: 日米独英の10年国債利回り推移

 Q 株価がばかげているほど割安だ、と過去10年来主張し続けていますが、今はそのチャンスがどれ程大きいか、思い知らされる時代ですね。

 武者 図表12により日米の国債利回りと株式益回りの推移を振り返ると、株式割高(債券割安)時代と、株式割安時代が交互に到来していることがわかる。そして現在の日本の株式の相対価格は、ばかげていると見えるほど割安であることがわかる。こうした極端な株式の割安さは、1950年代初頭の米国株式急騰前夜にしかなかったことである。1949年W・バフェットの恩師であるベンジャミン・グレアムが名著「賢明なる投資家」を表し、その20章(最終章)で投資において「将来がどうなろうと安全だ、と見られる投資領域=Margin of Safety(安全域)がある」、と主張した。

 1949~1950年の米国株式益回りは15%、国債利回りは2.7%であり、米国株式は歴史的安値にあった。このときの米国よりも今の日本株式のバリュエーションは低く、今がいかに極端であるかが分かるだろう。ベンジャミン・グレアムが今の日本株式を見れば、まさしく歴史的「安全域」と評すであろう。5年10年後になって、振り返ると今の日本がかつてない株式投資チャンスの時代であったことがわかるだろう。

図表12: 日米国債利回り、株式益回り、配当利回りの長期推移

(了)

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