2024年07月16日( 火 )

疲弊著しいロシア経済、まもなく戦争継続困難に(1)

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 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏から大島経営研究所所長・大島英雄氏の「疲弊著しいロシア経済、まもなく戦争継続困難に」が寄稿されたので以下に紹介する。

プロローグ:誤算続きの「プーチンの戦争」

 ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」です。戦争の規模こそ異なれど、ウクライナ侵攻は「第2のバルバロッサ(赤髭)作戦」ともいえましょう。  

 この原稿を書いている12月5日は、2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻後すでに285日目に入りました。昨日(12月4日)のOPEC+協調減産会議では、現行の減産維持合意(2mbd減産)を来年も継続することが決定(mbd=百万バレル/日量)。次回OPEC+協調減産会議は来年6月4日に予定されていますが、必要に応じ臨機応変に開催されることも決まりました。今回の協調減産継続を受け、今後油価はどのように動くのか筆者は注目しております。

 本稿の結論を先に書きます。ロシアのV.プーチン大統領(70歳)の対ウクライナ戦争は、結果として、ロシアの原油と天然ガス生産量低下をもたらすことになるでしょう。ロシア経済は石油・ガス依存型経済構造です。ロシアの原油・天然ガス生産量低下によりロシア経済は弱体化必至にて、ロシア経済弱体化はプーチンの墓標になる可能性大です。換言すれば、プーチン大統領はロシアの国益を毀損しており、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人ということになります。

 本稿では、「プーチンの戦争」がいかにロシア経済を疲弊させ、ロシア(露)の国益を毀損しているのか、筆者の独断と偏見と想像を交えて考察したいと思います。

第1部:油価変動がロシア経済に与える影響

 筆者がよく受ける照会事項に、「油価が1ドル上下すると、それはロシア経済にどのような影響を与えるのか?」という質問があります。実は、この答えは簡単です。ロシアの原油生産量は約10mbd(mbd=百万バレル/日量)、うち5mbdは原油(主にウラル原油)として輸出。残り5mbdは露国内で精製され、石油製品(主に軽油と重油)になり、そのうち半分は国内消費、残り半分は輸出です。ですから、油価(ウラル原油)が1ドル上がるとロシアの原油輸出収入は1日500万ドル増え、1ドル下がれば500万ドル減ります。1ドル上昇すれば年間では500万ドル×365日=約18億ドルの輸出金額増になり、石油製品も1ドル上がると仮定すれば、750万ドル×365日=約27億ドルの輸出金額増になります。

 現在の露ウラル原油の油価(FOB価格)はバレル$50~$55の水準で推移しています。本日(12月5日)に導入されたバレル$60上限設定は、ロシアを生かさず殺さぬ絶妙な制限油価です。なぜなら、露国家算案想定油価(2022年$62/23年$70)よりも低く、露原油生産コスト(約$40)よりも高いからです。すなわち、この$60は露国家予算案想定油価を勘案して設定された油価水準です。この価格水準ですと、露石油産業にとり輸出により利益は出ますが(損はしないが)、露国家予算案の赤字幅が大幅拡大することになります。これが何を意味するのかと申せば、ロシアのウクライナ戦費がその分だけ早く枯渇するということです。この点を指摘している日系マスコミは皆無です。

第2部:3油種週間油価推移(2021年1月~2022年11月)

 最初に2021年1月から2022年11月までの3油種(北海ブレント・米WTI・露ウラル原油)週間油価推移を概観します。油価は2021年初頭より2022年2月末までは傾向として上昇基調が続きましたが、ロシア軍のウクライナ全面侵攻後、ウラル原油以外は乱高下を経て、2022年6月から下落傾向に入りました。

 ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油です。ゆえに、ウラル原油は英語ではURALsと複数形のsが付きます。ちなみに、日本が輸入している(いた)ロシア産原油は3種類(S-1ソーコル原油/S-2サハリンブレンド/ESPO原油)のみで、すべて軽質・スウィート原油です。

 今年11月21~25日の平均油価は北海ブレント$86.4/バレル(前週比▲$5.7/スポット価格)、米WTI$78.7(同▲$5.3)、ウラル原油(黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$53.2(同▲$8.4)となり、ブレントとウラル原油には約$33の値差があります。

 この超安値の露産原油を買い漁っているのがインドで、ロシアは現在、アジア諸国に対し市場価格より3割安い油価でオファーしていると報じられています。ロシアの2021年国家予算案想定油価(ウラル原油)はバレル$45.3でしたが、実績は$69.0。2022年の国家予算案想定油価はバレル$62.2ですが、今年1~11月度の平均油価は$78.3になりました。

 上記のグラフをご覧ください。黒色の縦実線は、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した2月24日です。この日を境として、北海ブレントや米WTI油価は急騰。6月に最高値更新後に下落。11月末の時点で北海ブレントはバレル$85前後で推移、米WTIは$80を割り、油価は下落傾向です。一方、露ウラル原油の油価はウクライナ侵攻後に下落開始、11月中旬には2022年国家予算想定油価を割りました。  

 筆者は、昨日4日に開催されたOPEC+協調減産会議後の油価動静に注目しております。

(つづく)

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