2024年12月23日( 月 )

疲弊著しいロシア経済、まもなく戦争継続困難に(2)

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 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏から大島経営研究所所長・大島英雄氏の「疲弊著しいロシア経済、まもなく戦争継続困難に」が寄稿されたので以下に紹介する。

第3部:油上の楼閣経済/国庫税収は油価次第

 露経済と国庫税収は油価に依存しています。なお、この場合の油価とはあくまでもロシアの代表的油種ウラル原油の油価です。ウラル原油の油価が露国家予算案策定の基礎になっており、国庫歳入はウラル原油の油価に依存していることが下記グラフよりも一目瞭然となりましょう。

 ここで、参考までに過去4年間の露ウラル原油月次油価推移を概観します。露ウラル原油の月次油価推移は以下の通りです。2022年11月度の平均油価はバレル$66.5になりましたが、12月度は$60を割る水準まで低下するものと筆者は予測しております。

第4部:国家予算案概観(2023~25年) 

 ロシア政府は2022年9月28日、露下院に2023~25年国家予算原案を提出しました。ロシアの国家予算原案は下院にて3回審議・採択後上院に回付され、上院にて承認後、大統領署名をもって発効します。11月24日の下院第3読会にてこの原案は可決・採択されました。その後上院にて承認され、露プーチン大統領は本日12月5日にこの予算案に署名、予算案は発効しました。  

 ロシア政府が9月28日に提出した国家予算原案の概要は下記の通りにて、想定油価は露ウラル原油です。政府予算原案は例年9月中旬までに下院に提出されることになっていますが、今年は10月1日まで締め切り延長されました。これはウクライナ情勢を受けて予算案見直しが必要になったことをうかがわせますが、実際には9月上旬に策定された数字が9月21日に閣議了承され、その原案が28日下院に提出されたので、予算案見直しはなかったことになります。

 これが何を意味しているのかと申せば、ウクライナ東南部4州のロシア併合にともなう復興予算などは勘案されていないということです。しかも驚くべきことに、10月16日付け露独立新聞は「この予算案は2022年末までにウクライナ特別軍事作戦がロシア勝利のかたちで終結する前提で組まれている」と報じています。9月28日に公表された露政府予算原案の概要は上記の通りです。  

 ウラル原油想定油価は2022年見通し$80、2023年$70ですが、すでに非現実的です。なぜなら、今年11月後半から油価は急落しているからです。2021年に策定された2022年期首予算案では、$62.2前提で2022年は余裕の黒字予算でした。ところが2022年の国家予算案はウクライナ侵略戦争により大幅赤字となり、ミシュ―スチン首相は10月20日、露国民福祉基金から1兆ルーブルの資金を赤字予算補てんに転用すると発表。露会計検査院も、2023年国庫歳入は上記数字より5,400億ルーブル少なくなるだろうと指摘しています。

 すなわち、今年も来年も実際の赤字幅はさらに増えること必至です。参考までに10月11日に公刊されたIMF2022年10月度WEO(世界経済見通し)によれば、ロシアGDP成長率は2022年見通し▲3.4%、2023年予測▲2.3%になっているので、露経済悪化は不可避といえましょう。

第5部:欧米の対露経済制裁措置は効果大 

 欧米の対露経済制裁措置に関し、「対露経済制裁措置は効果少ない」と解説している人がいます。しかし、これは現実のロシア石油・ガス産業の実態を知らない人の「机上の空論」に過ぎません。対露経済制裁措置は強力に効いており、とくにロシアの石油・ガス産業に大きな影響をおよぼしています。

 欧米の対露経済制裁措置の影響・効果に関する概要は以下の通りです。

●対露経済制裁強化措置は効果大。
●北極圏や気象条件の厳しい石油・ガス鉱区においては、欧米石油メジャーの参加不可欠。
●欧米石油ガス関連サービス企業の参画なくして、ロシアの石油・ガス生産維持
は困難。
●欧米石油ガス関連製造企業が撤退すれば、ロシアの石油・ガス輸送インフラも影響大。
●露LNG大型プロジェクトに対する影響大。とくに、「Arctic LNG 2」は崩壊の危機に瀕するだろう。

 実例として、連日マスコミ紙面を賑わしている、露国内で稼働中の欧米から供給された高出力ガスタービンや高圧コンプレッサー機器類の保守点検・修理作業が困難になります。欧米石油サービス企業が撤退すれば、今後ロシアの原油・天然ガス生産量は減少必至です。ロシアにおける既存のLNG生産工場ではLNG生産量が徐々に減少し、現在建設中の大規模LNG工場(例、北極圏グィダン半島のArctic LNG 2プロジェクト)は完工不可能の事態に陥ることでしょう。北極圏や気象条件の厳しい海洋鉱区においては、欧米メジャーや石油サービス企業の参画なしには探鉱・開発・商業生産・輸送は困難・不可能なのです。

 2022年9月3日付け朝日新聞は、「ウクライナ侵攻後の石油価格の上昇で、石油輸出によるロシアの収入は大きく伸びた」(第7面)と報じています。しかし、これは間違いです。第1部の油価動静で検証したごとく、露ウラル原油の油価は2月24日のウクライナ侵攻後、下落しているのです。石油輸出によるロシアの収入が伸びたことは事実ですが、ウクライナ侵攻後に油価が上がったからではなく、昨年比ウラル原油の油価水準自体が上昇したからです。

 実例を挙げます。2021年の露石油(原油と石油製品)月次輸出額(推計)は149億ドル、2022年前半は伸びましたが7月以降減少しています。米国は2022年5月から、日本は6月からロシア産石油輸入量はゼロになり(現状10月まで輸入ゼロ)、今後もロシアの石油輸出額は減少していくものと推測されます。

 上記の通り、今年前半の露石油収入が昨年月次平均より増えたのは昨年よりウラル原油の油価水準が上昇したからであり、油価下落にともない石油収入は今後減少していくことになりましょう。

(つづく)

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