疲弊著しいロシア経済、まもなく戦争継続困難に(3)
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日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏から大島経営研究所所長・大島英雄氏の「疲弊著しいロシア経済、まもなく戦争継続困難に」が寄稿されたので以下に紹介する。
第6部:戦費拡大と衰退するロシア石油・ガス産業/露LNG生産は全面崩壊懸念の瀬戸際に
欧米メジャーや石油サービス企業が抜ければ、気象条件の厳しいロシアの海洋鉱区における石油・天然ガスの探鉱・開発・生産は持続困難になります。
厳しい海洋気象条件下の原油・天然ガス鉱区の探鉱・開発・生産・輸送には、欧米メジャーとシュランベルジャーやハリバートン、独ジーメンスや英ロールスロイス、米ベーカーヒューズGEなど、欧米の最新技術とノウハウ、最新設備の総合力が必要になります。
「サハリン-2」プロジェクトの場合、英シェルが抜けたので、LNGの原料となる天然ガス生産自体が早晩(1~2年以内に)減少開始して、徐々にLNG生産用天然ガス確保が困難になると筆者は予測します。当面は一匹狼の技術者を雇用することにより短期間は凌げますが、持続的生産維持は不可能です。
「欧米による対露経済制裁は効果ない」と書いたり・話したりしている評論家もいますが、現実は正反対であり、露LNG問題はより深刻です。欧米メジャーが撤退すればロシアの大規模LNG構想は全面崩壊する可能性大となり、その典型例が北極圏グィダン半島に建設中の「Arctic LNG 2」プロジェクトです。同プロジェクトのオペレーターである仏トタールは撤退をまだ決定していませんが、EPC(設計・調達・建設)契約者の仏テクニップと、LNGプラントを搭載する下部構造(GBS)を受注した伊サイペムはすでに撤退。ゆえに、本来ならば今年(2022)第1トレーン完工・稼働予定のプロジェクト工期全体が大幅に遅れており、完工・稼働する確固たるメドも立っていません。筆者は、この大規模LNGプロジェクトは早晩破綻するものと
予測しております。ロシアからバルト海経由ドイツ向け天然ガス海底パイプライン(以後、P/L)輸送量が2022年6月、突然減少。露ガスプロムは修理に出した「ノルト・ストリーム(1)」(以後、NS(1))用ガスタービンが戻ってこないとの理由で、NS(1)の天然ガス年間輸送能力55bcmに対し輸送量を削減しました(bcm=10億立米)。さらに、8月31日から3日間、定期修理のため輸送全面停止と発表。結局、NS(1)は8月31日以降、全面稼働停止となりました。
NS(2)は完工しましたが、稼働しないまま爆破されてしまいました。プーチン大統領は6月30日、大統領令416号に署名。これは、サハリン島北東部沖合のオホーツク海にて原油・天然ガスを探鉱・開発・生産している「サハリン-2」プロジェクトに対し、事業会社「サハリン・エナジー社」の権益を、今後新規に設立されるロシア法人に無償譲渡させる内容です。
上記大統領令を受け、ロシア政府は8月2日、政令1369号を発布。この新ロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギア」は、サハリン州の州都ユージノ・サハリンスク(旧・豊原)に8月5日に設立されました。
三井物産と三菱商事はS-2新会社「サハリンスカヤ・エネルギア」に権益参加継続を決定。両社は引き続きロシアに新設された新ロシア法人に権益参加継続することで、ロシア側も承認しました。
ここで1点指摘しておきたいと思います。商社の権益維持とS-2「サハリンスカヤ・エネルギア」による対日LNG供給は別次元の問題であり、直接の関係はありません。なぜなら、LNG供給契約は日本の需要家とサハリンスカヤ・エネルギア間の契約になり、三井・三菱はLNG契約の当事者ではないのです。
三井・三菱が権益参加継続すれば対日LNG供給が継続されると考えているとしたら、それは大いなる幻想にすぎません。三井・三菱はS-2事業会社への出資者であり、事業会社が利益を出せば権益に応じて利益配分を受け、事業会社が赤字になれば権益に応じて赤字負担します。LNG工場自体は新ロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギア」に移管されましたが、英シェルはすでにS-2プロジェクトから撤退しました。
オホーツク海のS-2鉱区では原油・ガス生産は継続していますが、シェルが抜けたので保守・点検を担当する技術者も少なくなり、早晩(1~2年後)生産量は徐々に低下していくものと筆者は予測します。
(つづく)
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