2024年07月16日( 火 )

【佐賀県知事選】現職の山口祥義氏が3回目の当選

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組織動員で有利に選挙戦を展開

佐賀県庁 イメージ    任期満了にともなう佐賀県知事選挙は、18日に投開票が行われ、無所属の現職、山口祥義氏(57)=自民、公明推薦=が、共産党佐賀県委員会書記長・上村泰稔氏(57)との同い年による一騎打ちを制し3選をはたした。

 選挙戦において、山口氏は自民公明に加え、JAグループ佐賀の政治団体「佐賀県農政協議会」や県医師連盟など約300団体の推薦を得た。一方で、地元から反対の声も根強い佐賀空港への陸上自衛隊輸送機オスプレイの配備計画についてほとんど言及しなかった。

 上村氏は、「危険なオスプレイを、県民の審判なしにこのままずるずる認めていいのか、オスプレイはいらない」(11月19日記者会見での表明)など国策の課題に対する反対姿勢を鮮明にしたものの、告示12日前の擁立となったこともあり、論戦は盛り上がりを見せず、投票率は、過去最低の33.28%であった。

 山口氏は、6月に佐賀県医師会や同歯科医師会、同薬剤師会、同看護協会でつくる県4師会の出馬要請を受け、6月定例県議会において、立候補を表明した。半年前に出馬表明し、各種団体を総動員したことで、序盤から選挙戦を優位に展開することができた。

 また、公約のなかで、佐賀県の若者が高校卒業後、県外に転出している構造的問題を、変革するとして、佐賀県立大学の設立構想を打ち出していた。佐賀県は、大学に進学する約3,400人のうち、福岡や東京、関西などへの進学が8割で、佐賀県内の大学への進学は、2割に満たない約600人あまり。山口氏は「大学新設は地方交付税で対応できる」とし、当選後速やかに議論を進める考えを示していた。若者が高校卒業後、県外の大都市圏に流出する問題は全国共通である。選挙戦中、峰達郎唐津市長が、市議会の一般質問に答えるかたちで「唐津市に県立大学を誘致したい」と語るなど、県立大構想が注目を集めたことも現職に有利に働いたのは間違いない。

 上村氏は、演説ではオスプレイ、原発、生活支援に関する訴えに多くの時間を割いたが、個人演説会などでなかなか集客ができず、保守王国佐賀県の壁を崩すには至らなかった。

3期目の課題

 3選を決めた山口氏の目下の課題は、在来線区間の九州新幹線西九州ルートの新鳥栖から武雄温泉間の整備方式だろう。現在、長崎から武雄温泉は、全国の新幹線で最も短い66㎞。武雄温泉駅で新幹線と、博多駅からやってくる在来線特急「リレーかもめ」を同一ホーム乗り換える必要がある。

 当選後、山口氏は「現状を上回るメリットがなければならない」「在来線の便利さは価値のあるもの」と述べ、国やJR九州が求めるフル規格での新幹線整備に対して慎重な姿勢を崩していない。西九州ルートは「全国新幹線鉄道整備法」に基づき建設され、建設費の3分の2を国、3分の1を地元の県が負担する。並行在来線を分離した場合、沿線自治体に与える影響を懸念する佐賀県民は多く、新幹線フル規格での整備が進まない理由である。

 また、11月1日に佐賀県有明海漁協による検討委員会で、陸上自衛隊の輸送機オスプレイの配備容認が決定していたが、これは3期目のなかで前進する見通しとなった。2018年に山口知事が受け入れを表明し、国が「着陸料」として支払う計100億円を基に漁業振興の基金を創設することで合意し、漁協と協議を重ねていた。

 配備計画では、佐賀空港西側の土地約33haに駐屯地を建設。オスプレイ17機などを配備するという。国は、中国の海洋進出を念頭に、離島の防衛を担う陸上自衛隊相浦駐屯地(長崎県佐世保市)所属の「水陸機動団」と一体運用することで、九州沖縄の南西諸島防衛強化を図る方針。

 漁協内には、駐屯地からの排水が、全国一の販売枚数を誇る養殖ノリに与える影響を懸念する声も根強く、協議が難航。防衛省は20年7月に、陸上自衛隊木更津駐屯地にオスプレイを暫定的に配備していた。漁協が最も注視していたのは排水対策であった。養殖ノリの品質には水質の変化が大きく影響する。

 今年に入って台湾有事など周辺諸国の危機が叫ばれるなか、ノリ漁解禁2日前の10月24日、山口氏は、佐賀市の漁協本所を自ら訪問し、6つの支所の代表者らを前に排水対策に万全を期すよう防衛省に働きかけることを約束し、早期の見直しに応じるよう求めた。知事の膝を交えた説得が功を奏し、懸念を払しょくできずにいた漁協の組合長らは容認へと動いた。選挙戦が始まる前に、オスプレイ配備容認がまとまったなかでは、選挙の争点は、見えづらくなり、事実上、現職への信任投票に終わった。

武雄市長選は現職圧勝

 また、佐賀県知事選と同日、任期満了にともない行われた武雄市長選は、即日投開票され、現職の小松政氏(46)が1万5,045票を獲得。新人で元市議の宮本栄八氏(67)は4,210票と伸び悩み現職が圧勝した。今回、小松市政の継続か、それとも刷新かが問われた選挙だったが、投票率は49.44%で、合併後で最低であった。

 武雄市政をめぐっては、先月18日、市が整備した戸別受信機による防災システムをめぐる住民訴訟に関して、佐賀地裁が、市に対し委託料約4億円の賠償を小松政市長に請求するよう命じる判決を出しており、今後の武雄市政の動向も目を離せない。

【近藤 将勝】

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