2024年07月17日( 水 )

街の急激な変化と持続可能性~約30年の首都圏居住経験者が見る福岡(3)

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福岡市営地下鉄 車両基地 イメージ    福岡県や福岡にずっと暮らしていらっしゃる方にとっては日常生活に溶け込んだ当たり前の光景に見えるかもしれないが、筆者は各地の街の変貌ぶりを浦島太郎的な、途方に暮れるような想いで見ている。

 なかでも大きな衝撃を受けたのが、市営地下鉄七隈線の「橋本駅」周辺である。室見川沿いに南下していると突然、地下鉄車両基地や「木の葉モール橋本」などの新しく大規模な施設が目に飛び込んできたからだ。30年前、このあたりは田んぼばかりが広がっていたが、今では周囲で住宅開発が盛んに行われるようになっている。地元に住む人によると、以前では考えられないくらいの高額で宅地取引が行われるようになったという。

 橋本から北上すると姪浜駅周辺に到達するが、このあたりも再開発が進み、30年前とは街の趣が大きく変わった。さらに西進した糸島市のJR筑肥線「九大学研都市駅」と、九州大学伊都キャンパス周辺も同様。のどか以外に表現のしようがない地域だったが、前者は学生や大学関係者などが暮らすおしゃれな街になり、後者は山の斜面が切り拓かれ、とても近代的でスタイリッシュな建築物が建設されている。

 市の東部に移動すれば、人工島「アイランドシティ」ができ、そこには超高層マンションも存在する市内を代表する高級住宅地が形成され、香椎を含むエリアは大型商業店舗が複数開設され、市内外から人が集う利便性の高い街になっている。南部も同様で、たとえば春日市中心部は大きく発展し、同市は現在では県内の「住みやすさ」ランキングで1位にあげられるほどになっている。

 交通網も30年前から比べてずいぶん整備された。市営地下鉄七隈線の開通はもちろんのこと、都市高速道路やバイパスの整備などにより以前に比べクルマでの移動のストレスが少なくなった。2011年の九州新幹線開業により九州各県から福岡への人の移動が活性化され、福岡市とその周辺部の成長に寄与している。「天神ビッグバン」など中心部の再開発に隠れがちだが、こうした周辺部における都市機能の整備が行われていることも「福岡は元気な街」と内外で評価される要因の1つとなっている。

 さて、ここから話題はずっと東方、千葉県佐倉市にある街「ユーカリが丘」について触れる。総開発面積は約250hで自然環境に恵まれた環境。成田国際空港に近く、かつ京成線「ユーカリが丘駅」からJR「東京駅」まで最短で1時間程度であることから、東京への通勤圏という立地性を有する。戸建住宅団地や高層マンション、各種商業施設、行政施設などのほか、住民の利便性を高めるため、「山万ユーカリが丘線」という路線距離約2.7kmの独自交通システムもある。

 2022年11月現在、889世帯、1万8,905人が暮らしている。何よりの特徴は1971年の開発当初から50年以上経った現在まで、住宅供給を年間約200戸に限定し続けてきたこと。これは住民の世代に偏りがでないようにする配慮によるものだ。また、住民のライフサイクルに合わせて適切な住まいで暮らせるようにするため、街のなかに子育て世帯からシニア世代までに対応するサポート体制、住み替え支援の仕組みも行っている。ユーカリが丘では以上のような取り組みにより、街の持続可能性を高めようとしているわけだ。

 全国的に街の高齢化や過疎化、建物やインフラの老朽化など都市機能の劣化に頭を悩ませている自治体が増えている。一見そうでないように見える自治体でも、街単位で見ると同様のケースを抱える事例が増えている。そうしたなかでユーカリが丘の開発事例は、まちづくりの今後について多くの示唆を含むのではないだろうか。

 ところで、福岡市は今や人口160万人を超え、政令指定都市のなかでトップの人口増加数・率となるなど、さらなる人口増加が続いている。前述した橋本駅を含む七隈線の開業や九大学研都市駅の新設などは、人口増加への対応とそれにともなう都市機能の強化の必要性によるものだろう。一方で、人口増加が続く福岡市とその周辺でも、人口の空洞化、さらには住民の高齢化と人口減少、それによる利便性の低下といった問題も顕在化しているようだ。たとえば、高度成長期に供給された団地住民の高齢化問題も全国同様に起こっている。

 つまり、福岡市とその周辺部は人口増加にともなう都市基盤の整備と、現在と将来で起こり得る人口減少や高齢化などの問題に同時進行で取り組む必要があるという、他の自治体以上の切実なまちづくりの問題を抱えているわけだ。福岡市のビジョンによると2035年ころに人口がピークアウトするとされているが、たとえばユーカリが丘のような持続可能性を考えた新たな開発、再開発が行われているのか、福岡についてあまり知らない筆者は各地をめぐるなかで、街の変化に驚くとともにそんな懸念も感じている。

 「あのころの福岡は元気だったのに今は……」と、将来的に内外の人たちに評されないように、価値の持続可能性追求に向けた議論がより活発に行われることが望まれる。

(つづく)

【住生活ジャーナリスト/田中直輝】

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