2024年11月22日( 金 )

2023年の経済見通し、リスクシナリオの点検(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は12月1日号の「ドル高がもたらす世界成長、ドル帝国循環の始動」を紹介する。

ドル高は100兆円レベルの巨大な利益を日本にもたらす

 武者リサーチは、タガを外れたような円の暴落はまったく考えられないし、日本に円安を止めなければならない理由もない、と判断している。日本は世界最大のドル保有国なので、ドル高は日本の保有外貨資産の価値を大きく押し上げる。対外純資産は3.6兆ドルと世界最大、米国国債保有額も1.2兆ドルと世界最大であり、ドル高は100兆円規模の巨額の為替換算益をもたらす。それを利用することで企業投資、政府によるハイテク・グリーン投資、防衛支出の増強などの費用が賄える。また企業の価格競争力は飛躍的に強まる。円安が進めば輸入物価が上昇するというマイナスはあるが、それは工場の国内回帰と国内製品の輸入代替を進めるので国内生産はより増加する。

図表7: 対外純資産残高推移トップ5カ国推移/図表8: 米国国債保有額トップ5カ国推移

軍事同盟下の日米金融協力

 日本円を考えるうえで日米金融協力も大事である。米中対立下で日米政府間の協力は軍事・外交のみならず、広範に緊密化していることがうかがわれる。円の急落を(620億ドルという相当の対日貿易赤字を抱えている)米国側が容認していることは、ほぼ明らかである。コロナ危機勃発直後のドル調達難に際して米中央銀行が巨額の緊急融資を邦銀に対して行ったことからも、日米金融協力が見て取れる。万が一の円の暴落は米国政府にとっても許容できないはずである。それは直ちに国際金融を不安定化するし、円安が進行すれば日本企業の競争力強くなり過ぎる。米国で生き残っている数少ない製造業は自動車、半導体製造装置だが、それらにとって日本企業が最も手ごわい競争相手であり、産業の利益という観点からも円安に歯止めがかかるはずである。

図表9:米国・日本で2分する半導体装置市場/図表10:半導体製造装置工程別各国シェア

150円以上の円安の余地は小さい、YCCは当分続く

 米国インフレと長期金利のピークアウトという循環的ドル安要因も顕在化しつつある。このように考えればヘッジファンドが期待している、日銀が通貨安を止めるために金融引き締めを余儀なくされる、ということは起きようもない。日銀はじっくり政策目標であるデフレ脱却に自信がもてるまで金融緩和を続けることができる。デフレ完全脱却と株高。次期日銀総裁もインフレターゲットの実現まで利上げを待てる。2023年のドル円レートは150円から130円のレンジか、日銀の政策フリーハンドは続き、YCCは2023年年末まで維持される可能性が高い。

(3)リスクシナリオの点検 2:米国のリセッション深化とバブル崩壊のリスク小

堅調な米国ファンダメンタルズ

 インフレはピークアウト、FRBは断固とした利上げによりインフレマインドのスパイラル拡大にキャップをかけた。ターミナルレートは5%を超えていくが、そのもとでも米国景気は、雇用・投資・企業利益などが堅調でソフトランディングの可能性も残されている。実質賃金はマイナスだがコロナ禍の下で潤沢になった貯蓄と好調な雇用環境(給与・賃金)、財政政策の寄与により、消費は容易に失速しないだろう。米国企業はインフレにより10%近い増収が続き、賃金も上がるが企業の価格決定力も健在で、ドル高による海外利益の換算益減少を除き、利益率が大きく下がる要素は少なく、高水準の利益が維持されるだろう。

図表11: 米国長短金利と名目GDP成長率推移/図表12: 米国市場と経済のアンカー健在

図表11: 米国長短金利と名目GDP成長率推移/図表12: 米国市場と経済のアンカー健在

オーバーキル回避できるか、2条件(長期金利、司令塔の思想)の吟味

 FRBのインフレ抑制優先姿勢によりオーバーキルに陥るのか、回避できるのかの
見極めが重要である。武者リサーチは、(1)潤沢な貯蓄クッションとドル高により長期金利がはっきりと低下趨勢を示していること、(2)FRB、米財務省という指令塔は、(パウエル議長がどのようなレトリックを弄しようとも)本質的にデフレのリスクをより強く認識していると考えられること、の二点により2023年の前半に金融政策の大転換が起きると想定する。急速な利上げが、家計やシャドウバンキングの債務コストの上昇をもたらし、企業・金融破綻を引き起こす連鎖には留意が必要だが、個別破綻がシステミックリスクに転化しそうな気配があれば、FRBは落下傘的救済措置を取るだろう。バブル崩壊論者が待望するようなcatastropheは起きそうもない。

(つづく)

(前)
(後)

関連記事