2024年09月02日( 月 )

為替介入と円安(前)

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元世界銀行グループMIGA長官
元財務省
くにうみアセットマネジメント(株)
取締役
BIS顧問
井川 紀道

1.ドル円相場の近年の動向

円安 イメージ    私はたまたま30年前に当時の大蔵省国際金融局為替資金課長として、1992年上半期に6,532億円のドル売り円買い介入を実施したことがある。そこで、最近のドル円相場をめぐる動向について、本年9~10月の24年ぶりのドル売り円買い介入を含め、論じてみたい。

 アベノミクス以前には、ドル円相場は80円前後の超円高になっていたが、これは主要国が2%のインフレ目標を掲げるなかで、日本だけがグローバルスタンダードになっていなかったためといえる。アベノミクスにより2%のインフレターゲットが採択され、超円高の修正がなされて、それ以降、ドル円相場は概ね110円から120円で推移してきた。

 ところが、ドル円相場は、2022年4月以降円安が進み、9月には150円をうかがう動きとなった。これは、米国でインフレが加速し、日米の金利差が短期間に急激に拡大したためである。

 米国では本年6月に消費者物価指数が対前年比9.1%上昇(40年ぶりの上昇率:食糧エネルギーを除くコアは+5.9%増)するなどインフレが亢進してきた。このため、FRBは本年3月には3年ぶりに政策金利を0.25%引き上げ、これまでに6回の利上げを実施し政策金利を4.25~4.5%の水準にまで引き上げている。

 これに対して、日本においては、消費者物価指数は本年10月には40年ぶりに前年比3.6%の上昇となったが、日本銀行は異次元の金融緩和を堅持し、つい最近まで(短期の)政策金利は-0.1%のマイナス金利を維持し、さらに、(長期の)国債の流通利回りは(10年債で)0.25%の上限を維持するYCC(イールドカーブコントロール)が実施されていた。

 このため歴史的な円安が進み、円の価値はインフレ格差を加味し多数の通貨との関係で加重平均した実質実効為替レートでみると、360円時代を終焉させた1970年代初頭のニクソンショック以来の円安水準になっていた。近年下落が大きなトルコなどの新興国の通貨よりも下落幅が大きいことも注目された。ただし、これはドルの全面高を反映していた部分も多少あり、ドルの実質実効相場についても、円が240円から150円前後まで急騰した1985年のプラザ合意以前のドル高水準になっていた。

 為替相場はその時々により、さまざまな要因により影響を受けるが、現在はインフレ格差に着目し、インフレ通貨は下落し、デフレ通貨は上昇するという購買力平価説は、もともと中長期の決定要因であり、鳴りを潜めている。また、貿易収支など国際収支の影響は無視できないが、決定的な影響力はない。そして、なによりも、ドル円相場は、内外金利差に対して、敏感に反応している。とくに本年になってからは日米の5年もの国債利回り差にほぼ連動した動きになっている(リーマン・ショック後に注目されてきた世界の投資家の投資行動の変化、リスクオンかリスクオフかは、金利差に比較して、やはり大きな要因となっていない)。

 こうしたなかで、大方の予想を裏切って、9月と10月には、それぞれ145円前後、151円前後で、合計9兆円規模のドル売り円買い介入が実施され、その直後には、5円から7円程度の円安の修正が行われた。ドル円相場は、12月19~20日の日銀政策委員会までに130円台なかばの水準の円高に戻していた。この間に、米国において、インフレ率が多少収まり、消費者物価指数は、対前年比で10月7.7%、11月7.1%に低下。市場では政策金利が2023年後半には利下げに転じるとの見方も台頭し、ドル円相場がこれを先取りする動きもみられた。

(つづく)

(後)

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