2024年12月05日( 木 )

【古典に学ぶ・乱世を生き抜く智恵】ゴルバチョフ〜収穫に立ち会えなくても、種を蒔く〜

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中島 淳一 氏
中島 淳一 氏

 ソビエト連邦の最後の最高指導者であったミハイル・ゴルバチョフ(1931〜2022)は現在のロシア南部のスタヴロポリ地方で農民の家に生まれる。

 モスクワ国立大学法学部を卒業後、スタヴロポリ地方検察当局で勤務。61年には全連邦レーニン共産主義青年同盟の地方委員会の第1書紀となる。62年からは党職務を手がけ、71~91年にソ連共産党中央委員会委員、80~91年にはソ連共産党政治局委員を歴任した。

 85年にはソ連共産党中央委員会書記長、88年からはソ連最高会議議長となり最高指導者として超大国の運営を担った。ペレストロイカ(建て直し)やグラスノスチ(情報公開)などの改革を行ったことで知られ、米国とのマルタ会談などで冷戦を終結に導き、西側諸国との緊張緩和にも尽力。90年にはノーベル平和賞を受賞したが、91年8月クーデターなどによって求心力を失い、大統領職を辞職し、ソ連は崩壊。西側諸国では新思考外交による改革者として知られる一方、ロシア国内ではゴルバチョフの統治がソ連崩壊をもたらしたとして、国民や歴史家の評価も分かれている。

世界を変革したいなら、まず自分の心を変革せよ。

 自分の心が変われば、世界はまったく違うものに映るだろう。心が変われば、視座が変わる。視座が変われば世界に対する態度が変わる。態度が変われば、世界からの視座も変わる。そうすればお互いに交わす言葉も変わる。言葉が変われば濃密なコミュニケーションができる。深い人格的な交わりの積み重ねでしか世界は変わらない。

 過去の成功体験を過大評価し、極度に美化してはならない。未来に向かって前進できなくなるからだ。相手に傷を負わせる者は自分も深傷を負うことになる。相手に安らぎを与える者だけが自分も安寧を得る。トップリーダーが自分の間違いを認めることは極めて難しいことかもしれない。しかしそれをしなければ底なし沼に足を取られ先には進めなくなる。

 人の上に立つ者はしばしば、生死を別つ試練に立たされる。強い心だけではなく常に的確な判断能力をもたなければならない。不運や敗北に屈しない勇気と頑強な意志力。そして困難の極みのなかで、自分自身を省み、自分の間違いを認める決断なくして、トップリーダーとしての人生を生き抜くことは難しい。何より大切なのは狭量な己の自尊心に打ち勝ち、悠然として人間本来の良識ある自信を取り戻すことである。

 友や家族を愛し、自分を信じ、強大な権力や名誉などなくても、しっかりと大地に足をつけ生きていけることの喜びを世界に示す必要がある。

収穫のときには立ち会えなくても種を蒔く。

 何もしないことは過ちだということは、経験上誰もが知っている。ましてや、トップリーダーともなれば、何もしないことほど許しがたい罪はない。現状維持は後退を意味し、死に至る病にほかならない。今まで施工してきた方法や手段で、今後も困難な諸問題を解決できると思っているとしたら、その考えは甘すぎる。

 当然のことながら、変革には身を切り裂くような痛みがともなう。痛みを味わうなかで人は本来の力を発揮し、進化を遂げる。痛みは罰ではなく進化への起爆剤だ。平和とはすべてを同じものに統一することではない。お互いの違いを認め合い、尊重し、その多様性のなかで交響曲を奏でることだ。

 実にこの世は一冊の美しい書物である。しかしそれを読めないトップリーダーもいるかもしれないが、これからの世界は決して独裁や支配を受け入れはしないだろう。お互いを潰し合うような不道徳な戦闘の戦略を練り上げるより、議論に議論を重ね合いどこまでもとことん話し合うことを選ぶべきである。怒りと憎しみを握り締めたこぶしでは、とうてい握手などできようはずもない。外交には敵も味方もない。あるのはお互いの国民の利益だけである。

 生きているうちに私自身は収穫には立ち会えないかもしれないが、すべての力を集中し、今のうちにできるだけのたくさんの種を蒔いておきたい。


<プロフィール>
劇団エーテル主宰・画家
中島 淳一
(なかしま・じゅんいち)
TEL:092-883-8249
FAX:092-882-3943
URL:http://junichi-n.jp/

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