2024年12月23日( 月 )

米国経済の好都合すぎる真実(謎)と基本矛盾(1)真実か偽りか?(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2月14日号の「米国経済を覆う『好都合すぎる真実』、偽りなのか?」を紹介する。

 今の米国経済をどのように捉えたらいいのだろうか、常識的解釈では説明がつかない、好都合な謎が多発している。労働市場は1年以上にわたる金融引き締め、ハイテク大企業のレイオフ続出にもかかわらず、活況が続いている。さらに不思議なことに、旺盛な労働需給の下で賃金上昇率が低下し始めた。また、金融市場でも1年間で8回、累計4.5%の利上げにもかかわらず、潤沢な投資資金が健在で、新興国株式や米国の低格付けクレジットを押し上げている。

 なぜこのような好都合な事象が頻発しているのか、この謎は一時的なもので、景気悪化が深刻になる過程で消えていくものなのか、それとも持続し米国経済を支え続けるのか。

(1)労働市場の謎

絶好調の米国労働市場

 1月の雇用統計はほぼすべてのエコノミストにとってサプライズであった。雇用が絶好調で、失業率は3.4%と53年ぶりの水準まで低下した。雇用増加数は51,7万人と予想を大幅に上回り、2022年8月以降の26~35万人台の増加トレンドから加速しているとも見られる強さである。雇用はほぼ全産業にわたって増加(利上げにより住宅着工が落ち込んでいる建設部門でも増加)している。歴史的利上げ、大手ハイテク企業中心にレイオフの発表が相次いでいるなかでのこの労働市場の好調さは、尋常ではない。

図表1: 53年ぶりの低失業率とNAIRU/図表2: セクター別雇用者数の増減

 ここ数カ月間のレイオフ発表はざっと挙げただけでも、アルファベット(1万2,000人、6%削減)、アマゾン(18,000人以上)、デル(6,600人、5%削減)、IBM(3,900人、1.4%削減)、マイクロソフト(1万1,000人、5%削減)、セールスフォース(10%削減)、Zoom(1,300人、15%削減)、PayPal(2,000人、7%削減)、BNYメロン(1,500人、3%削減)、ゴールドマンサックス(3,200人)、ダウ(2,000人削減)、3M(2,500人削減)・・・・、ハイテク大企業で軒並みである。

 しかし企業の求人意欲は強く、利上げにより住宅着工が落ち込んでいる建設部門を始め、ほぼすべてのセクターで雇用が増加している。大企業に押されて雇用が進まなかった中小企業は、このリストラをチャンスと捉えている向きもある。旺盛な消費が広範な雇用機会をもたらすという好循環は損なわれていない。1990年代前半のBPR (ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)革命のときは、機械に置き換えられたホワイトカラーが失業し、労働市場が不振のままのジョブレス・リカバリーが続いた局面があったが、当時とは雲泥の違いがある。

強まる労働者のバーゲニングパワー、だが賃金上昇は減速

 労働者のバーゲニングパワーは健在である。自発的離職者は高水準、企業、とくに中小企業の求人未充足率は高水準で高給を求めての労働者のJob hopping が旺盛である。

図表3: 歴史的高水準の中小企業求人未充足率/図表4: 高止まりする自発的離職者数

 こうした労働需給ひっ迫の下で賃金上昇率が減速、格差も縮小していることも、常識に反している。1月のAHE(平均時給)は前月比0.3%と昨年1月の0.7%から半減している。コロナ禍の下での異常な労働需給ひっ迫が引き起こした、トラック運転手やウェイター、ウェイトレスなど接客業での人手不足は緩和に向かい、非熟練、低賃金分野の賃金上昇率は鈍り始めている。また高給セクターの金融や情報部門での雇用の伸びが低いことも全体の賃金水準の伸びを引き下げている。

図表5: ピークアウトした平均時給/図表6: 賃金上昇率格差(大卒以上-高卒未満)/図表7: 学歴別労働力増減推移/図表8: ピークアウトした雇用コストの伸び

 1月の週平均労働時間は34.7時間と、過去半年のレンジ(34.4~34.6時間)を上回った。雇用数の増加と労働時間の相乗効果により1月の生産活動は大きく増加していると示唆される。他方で雇用コスト指数は低下している。生産性の伸びと賃金上昇率低下が進行する、まさに出来すぎの労働市場であるが、なぜこんなことが起きているのか。

NAIRUの低下が起きている可能性

 明らかに労働市場が弾力的に動き、資源配分を采配しているといえよう。より具体的には、NAIRU(インフレを加速させない失業率)が低下している可能性である。労働市場ではインターネットによって求人と求職のマッチングが瞬時にできるようになった。またよりフェアな労働賃金決定が可能になっている。スキルアップによるジョブシフトが給与増+生産性上昇を引き起こしているかもしれない。

 労働者は容易にスキルにあった職を探し当てることが出来、平均失業期間は2023年1月は9.1週と、コロナ前2019年の9.3週を下回っている。NAIRUが低下しているとすれば、それは労働力供給余力を意味し、生産増加の一方で賃金が抑制される環境にあるのかもしれない。

(つづく)

(後)

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