2024年11月25日( 月 )

【ウクライナ・ボグダン氏】長期化する戦争下キーウの現状(中)

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ボグダン・パルホメンコ 氏

 2022年2月24日にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して、まもなく1年が経とうとしている。この1年、現地の情勢はメディアやジャーナリストのみならず一般市民のSNSなどによっても日々発信されてきた。そのなかに、日本語による現地からの情報発信で注目されるボグダン・パルホメンコ氏がいる。

 今回は、長期化する戦時下における生活と精神的な厳しさ、情報発信の難しさ、日本や国際社会に対する思いをレポートしてもらった。
(本レポートは2022年11月30日受領。日付も当時のもの)

電気・水道・ガスなどのインフラの重要さ

日本からの支援物資を受け取るボグダン氏
日本からの支援物資を受け取るボグダン氏

 戦争が始まったとき、インフラがダメになってしまうのではないかと心配していました。シャワーには小まめに入り、携帯などの機器類は常に満充電。できる限りの備蓄を行い、どんな状況でもしばらく持ち堪えることができるように備えていましたが、時間が経つにつれ、キーウでインフラが止まることはなく、すっかり安心していました。

 しかし、10月11日のキーウのインフラに対する大規模攻撃によって、計画停電が始まりました。最初は1日数時間程度だったのが、今は半日以上の停電が続きます。電気が止まると水道のポンプも止まるため、断水が起きます。ガスが通っている住宅はまだお湯を沸かしたり、調理したり、暖をとることもできますが、近年主流になったオール電化の住宅はすべてがストップしてしまいます。

 すでにキーウの気温は氷点下です。紅茶すら飲めない生活は心身共に大きなストレスを生じます。モバイルバッテリーなどを用意することはもちろん、水道水をポリタンクに貯めておかないとトイレすら流せません。ウクライナでは住宅の壁に取り付けられたパイプにお湯を循環させて住宅を温めるセントラルヒーティングのシステムが採用されていますが、このお湯を循環させるのも電気ポンプ。電気が長時間止まると室内の温度も下がります。また、雪が降ったり溶けたりを繰り返す冬のシーズンは、地中に溜まる地下水をポンプで住宅の敷地から排水する必要がありますが、停電が起きると、これもできなくなり、住宅が浸水する恐れが出てきます。

 生活上の不便ばかりでなく、停電は命を危機にさらします。一番大変なことは停電でエレベーターが使えなくなることです。子ども連れの家庭や足腰が不自由なお年寄りの避難はもちろん、高層マンションに住んでいる人々はエレベーターが使えないと攻撃があった際に逃げ遅れる可能性が高くなるのです。

 私の祖母はマンションの7階に住んでいますが、停電がいつ起きるかわからず、エレベーターに閉じ込められるのを恐れて、この1カ月はほぼ自宅から出ない生活を続けています。食べ物やいつも飲む薬などは私や弟が届けていますが、自宅から出ないことでさらに筋肉が衰えて、いつか寝たきりの生活になってしまうのではないかと、家族で心配しています。

 これは祖母だけでなく、妊婦さんなども同じです。先日のニュースでキーウのエレベーターに妊婦さんが閉じ込められ、そこで陣痛が始まってしまい、救助隊に救出され病院に運び込まれたという話を聞きました。彼女の場合、外部と連絡が取れたから良かったものの、もしそれができなかったらと思うと、とても怖くなります。今後ウクライナでは停電が起きても、エレベーターなどは非常電源で作動するようなシステムの構築が早急に必要だと感じます。

通信環境や情報取得の重要性

 電気や水道と同じくらい重要なのが通信環境です。ウクライナでは数年前からほぼすべてのテレビ、ラジオがインターネット経由で放送されるようになりました。テレビを見るにはプロバイダーと契約し、テレビ局のアプリを起動して再生することが一般的。ラジオの視聴も同様です。しかし停電が起きると、通信ができなくなります。情報が入らないと攻撃があるのかないのか、いつ電気が復旧するのか、そして友人や知人は無事なのかという情報が一切入ってきません。そして自宅の電気が復旧しても、今度は友人宅で停電が起きる。連絡を取るタイミングが噛み合わず、これでは緊急時にやり取りができません。

 ウクライナでも全面戦争が始まってからリモートワークが広まり、仕事はもちろん、勉強も自宅で行うことが定着して、オフィスや学校に行くことはほとんどなくなりました。しかし、現在のように停電が続くと、仕事も勉強もほぼできません。

 プロバイダーや通信業者は急ピッチで予備電源を設置する工事を進めているものの、バッテリー類が高騰しており、需要に対して供給が追い付いていません。今まで2,000円で買えていたモバイルバッテリーは4,000〜5,000円まで高騰し、買いたくても買えない人が出ています。私自身、計画停電後、SNSの更新やYouTubeへの動画のアップロード、メディアの露出が満足にできなくなり、とても歯痒い思いをしています。今まで当たり前のように通信できたことがとても幸福だったと実感しました。

(つづく)


<プロフィール>
ボグダン・パルホメンコ

1986年旧ソ連・ウクライナ生まれ。90年に日本に移住し、神戸市・大阪市で中学校卒業まで過ごす。キーウの大学を卒業後、三菱商事現地法人勤務などを経て、キーウにて化粧品輸入販売会社SEPA LLCを設立、経営を行っている。

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