2024年11月22日( 金 )

孤立する人、しない人(後)

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大さんのシニアリポート第119回

 運営する高齢者の居場所「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)を訪れる客層が、最近少しばかり変化した気がする。昨年11月、地域にある公民館を拠点に「おやじアコギ倶楽部」を創設した。文字通り参加資格は「自分がおやじ」と自覚できる人のみ。若いときにバンドを組んだり、趣味で弾いたりしていたものの、肝心のギターを押し入れの奥深くしまい込んでいた人たちだ。

 プロのギタリストを講師に招き、本格的な演奏を目指す。公民館使用の抽選に外れた場合は「ぐるり」での練習になる。それを機に、ギター持参の人が「ぐるり」に顔を見せる機会が増えた。

役職定年後に起きる自信喪失とセルフネグレクト
(つづき)

サロン幸福亭ぐるり イメージ    「役職定年」で落ちこぼれを感じる会社員が急増するなか、65歳以上の高齢者の2割が「生きがいを感じない」という結果が内閣府の調査(22年版「高齢社会白書」)で分かった。その理由として「家計にゆとりがない」が3割を超している。近所付き合いや交友関係がある人ほど「生きがいを感じている」と回答している。つまり、高齢者にとって、近所付き合いや趣味などを通した交友関係が大切だということになる。

 「高齢者」=「孤独死予備軍」とはかぎらないが、それでも孤独死のキーワードが「近所付き合いの有無」であることに変わりはない。「遠くの親戚」より「近くの友人」なのだが、これがうまく機能しない。個人の持つ資質が大きく左右することは否めない。

コロナ禍で起きている孤立化

 朝日新聞(23年1月5日)に、「エアコンがまん…『暖』シェアのみ」という見出しで、クリスマス寒波が来襲した昨年12月24日、東京都庁下で食料配布を待つ長い行列に87歳の男性がいた。「物価も上がって生活が苦しい」といい、年金だけの生活では家計が苦しく、昨年8月から都内の食糧支援会場をまわるようになったという。

 23区内の都営住宅で一人暮らし。エアコンなし。猛暑の夏は、「窓全開で扇風機をかけて、耐えられないときは、図書館や施設に避難していた」と答えた。「11月の消費者物価指数は、電気代が前年同月より20.1%、都市ガス代が28.9%上昇するなど値上がりが続く」という統計があり、安易にクーラーも使えない。

 東京都監察医務院が公表した東京23区の熱中症死亡者のデータによると、「2020年夏の熱中症死者(239人)の8割超が70歳以上。屋内で亡くなった220人のうち約9割は、エアコンを設置していないか、あっても使っていなかった」という結果だ。

サロン幸福亭ぐるり イメージ    群馬県館林市では、昨年11月から「ウォームシェア」の呼びかけを始めた。暖かい商業施設で市民にゆっくり過ごしてもらう取り組みで、地球温暖化防止の省エネ推進と、家庭の電気代と灯油代の負担軽減が目的。場所は「アゼリアモール」という約100店舗が運営する大型ショッピングモール。モール内にソファが並ぶスペースや大型テレビが設置された席など、複数の休憩所がある。

 当然「買い物ついで」という商魂も見え見えだが、週に3回も来ている高齢女性がいるなど、その効果は大きい。できれば自治会や町内会の集会所を開放するという手もあるが、コロナ禍で「過密」という点が問題でもある。政府は3月から「マスク着用の自由」を決めている。集会所の利用は各家庭の光熱費の軽減もあるが、「見守り」という意味でも効果が期待できると思う。

 「ぐるり」の常連客M女が救急搬送されたことはすでに報告した。「ぐるり」最強の「困ったちゃん」は、UR賃貸住宅の住人である。入浴中に足腰が立たなくなり、大声で助けを求めた。運良く階下の住人がその声を聞きつけ消防署に連絡。救急隊員がはしご車を使いM女のベランダ側の窓ガラスを壊して救出しという“事件”だった。

 M女は他人の進言には一切耳を貸さない。「他人に迷惑をかけたくない」というのが生活信条なのだが、見事に迷惑をかけ続けている。現在も入院中で、3カ月ごとに病院をたらい回し状態。甥御(M女の姉の子)さんがいるものの、本人は病気がちのうえ、母親が認知症でその介護で手一杯。M女のプライドも結構だが、もう少し素直になって、公的な援助や「ぐるり」の人たちの助けを受ければいいと思うのだが…。心配なのである。

(了)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第119回・前)
(第120回・前)

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