2024年11月25日( 月 )

岐阜県職員労組が統一地方選で自民党支援 福岡にも波及するか

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岐阜 イメージ    先月16日付記事「連合会長、自民党大会への出席を見送りへ」で報じた通り、自民党が統一地方選挙を前に、立憲民主党や国民民主党の支持団体である連合(日本労働組合総連合会)の切り崩しを目指した動きをしているが、このたび、岐阜県職員組合が統一地方選の県議選(4月9日投開票)で自民党の公認候補予定者23人を推薦することが判明した。

 岐阜県職員組合は長年にわたり、上部組織の自治労岐阜県本部や連合岐阜の有力な加盟団体の1つとして活動し、旧民主党系の議員を支援してきたが、22年3月に「特定の政党の枠にとらわれない活動」を理由として自治労や連合から脱退。脱退に際して全組合員から投票を行った結果、66.9%が脱退に賛成した。知事選をめぐる連合側とのしこりも契機となったという。

 21年1月の岐阜県知事選では、現職を含む4人が立候補したが、現職の古田肇氏と、新人で元官僚の江崎禎英氏との事実上の一騎打ちとなった。岐阜県選出の自民党国会議員7人は、県連会長の野田聖子衆議院議員など6人が古田氏を、大野泰正参議院議員が江崎氏を支持した。自民党所属の県議会議員の間でも対応が分かれた。自民党だけでなく野党系も分かれた。連合岐阜は自主投票としたが、労組の大半は現職の古田氏を推薦する一方、県職員組合は江崎氏を推薦していた。岐阜県は保守王国としても知られ、21年衆院選でも5つの小選挙区すべてで自民候補が勝利した。

 そのなかで、立憲民主党から立候補した弱冠25歳の今井瑠々氏が、元国家公安委員長・古屋圭司氏を1万4,000票差まで追い上げたことが注目された。今井氏はその後、自民党へと移籍し、話題となった。4月9日投開票の岐阜県議選に、多治見市選挙区(定数2)に自民党推薦で立候補を予定している。今井氏は移籍の理由として、「政党の枠にとらわれてしまうと、地域の皆さまから『瑠々ちゃんが頑張っているのはわかるけれど、なかなか応援しづらい。一緒に何かやりづらい』という声もあった」と述べつつ、自民党が強い岐阜県において野党系では何にもできないという思いを述べていた。

 岐阜県議会は、定数46人に対して自民党系会派の県政自民クラブが32人。一方、旧民主党系の県民クラブは6人に過ぎない。今回、岐阜県職員組合が23人の自民党公認の県議予定者を推薦するのも、今井氏と同じ考えから出た結論だろう。岐阜県の自民党関係者は、今井氏や岐阜県職員組合の動きを「大歓迎しています」と喜ぶ。

 岐阜と福岡を単純に比較はできないが、同じような動きが今後福岡でも起こってもおかしくない。先月13日、自民党福岡県連の執行部会後の記者会見で、原口剣生県連会長が「労働団体との協議をするモデル地区になろうという考えを進めている」と述べた。また、同県連の常任相談役も務める麻生太郎党副総裁が、連合の芳野友子会長と会食を行うなど、このところ急速な接近が目立つ。

 連合福岡の推薦を受ける現職の県議は、「自動車総連など民間労組をうまく取り込みたい考えがあると思います。ただ、連合中央が自民党に接近することに、公務労組系だけでなく民間労組も警戒感があります。そう簡単にいかないと思います」と語る。

 福岡県は、かつて社会党王国と呼ばれた時代があった。炭鉱の関係もあって労働運動も盛んで、知事選において保革の対立が激しかった。1995年の県知事選で元特許庁長官の麻生渡氏が当選して以降、県議会において、自民党県議団、公明党、旧民主系や社民でつくる民主県政県議団、そして農政連系の緑友会の主要4会派が、県政与党と呼ばれる。この体制は、麻生渡元知事から小川洋前知事、現在の服部誠太郎知事へと引き継がれ、執行部と議会は良好な関係で物事が進められている。

 今回の県議選において、保守系が分裂している選挙区が複数あるが、筑後市選挙区では、現職の藏内勇夫氏の事務所開きに、かつて自治労福岡県本部書記次長を務め、国民民主党県政クラブ県議団会長にも就任した吉村敏男氏や、筑後市職員労組の推薦を受ける市議も参加していた。お隣の八女市・八女郡選挙区(定数2)では、現在議長を務める桐明和久氏(自民党)、緑友会で福岡県農政連の公認候補の栗原悠次氏、そして元八女市職員で自治労の推薦を受ける青木剛志氏の3名が立候補を予定しているが、連合福岡は青木氏を推薦しており、自治労福岡県本部や福岡県教職員組合が応援する一方、UAゼンセンなど民間労組は自主投票の姿勢を示し、現職の栗原氏を応援する動きをしている。

 八女市・八女郡選挙区で、同じ連合系労組でありながら青木氏に一本化されていない理由として、あるゼンセンОBは「日教組などは昔の社会党的な考え。民間は穏健な中道で、考え方がそもそも違う」と解説する。八女市長を務めた野田国義参議院議員(立憲民主党)は、市長時代、職員労組と対立し、民間労組に近い立場であった。ところが、民主党から衆議院議員に出て以降、逆にかつての仇敵・自治労に接近したことで、左に急旋回したと捉えられ、民間労組系は反発していた。このしこりがいまだにあり、野田氏が全面支援する青木氏を応援しない動きになったようだ。

 地域に基盤を持つ労組票の行方が当落を左右するからこそ、保守勢力もその取り込みを考えるのだろう。

 「県議会では55年体制が残っているから、国政と違って与野党なく議論ができ、県民生活の向上につながっている」と評価する声がある一方で、「オール与党でしっかり行政をチェックできるのか」という批判もある。

 岐阜の動きが全国に波及していくのか、注目していきたい。

【近藤 将勝】

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