贈答用と自家消費の両取り 「直営展開」が推進力に
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「もち吉」といえば、福岡を代表する米菓メーカーで2022年2月期には220億2,505万円の売上高を計上。23年3月時点で全国に233店舗を展開している。同社は本日、「もちだんご村モール」を直方市にオープンさせる。これを機に福岡の地場業者のなかでも圧倒的な存在感を放つ同社のブランド力と強さの秘密を探る記事を改めて掲載する(本記事の初出は3月)。
菓子業界におけるもち吉の立ち位置
せんべいやあられ、おかきといった米菓の業界は「ハッピーターン」などで知られる首位・亀田製菓をはじめ、三幸製菓、岩塚製菓と新潟に本拠を置く「流通菓子」メーカーが上位を占める。スーパーやコンビニなど圧倒的な販路を有する「流通菓子」メーカーを差し置いて、2022年度の米菓メーカー売上高ランキング3位に入ったのが(株)もち吉だ。「博多通りもん」で知られる(株)明月堂(福岡市博多区)の22年5月期の売上高は48億5,228万円。全国的な知名度をもつ明月堂の4倍以上を売り上げており、その存在感は色濃く放たれている。
贈答品としての需要をつかむ
同社は1929年に森田製菓として創業されたことに始まる。当時は飴玉や和菓子などを製造し、小売店向けに卸売販売していたが業績は伸び悩んでいた。そのようななかで、営業先の女性から分けてもらった「あられ」の味に衝撃を覚え、自社製造に着手した。
自社で米菓製品を開発し、当初はスーパーなどへ卸売するもその商売は軌道に乗らなかった。試行錯誤するなかで生まれたのがせんべいのセット「餅のおまつり」。87年、当時1,000円のギフト缶を丸ごと生命保険会社や大手企業に送付し、無料で試食してもらった。比較的安い価格帯でありながら、個包装でかなりの数が入っているということが保険外交員に刺さり、手土産品や中元・歳暮の品としての評判がつき始めた。通信販売システムを通じて販売ルートを拡充する一方、テレビCMや新聞を使った宣伝で現在の知名度を獲得した。
「米よし、水よし、技もよし」。同社の商品には国内産の米や福智山山系天然水が使われている。そして、これらの厳選された素材を最大限に活かすのは同社が培ってきた技術であること。この3つの要素を掲げたものが現在もキャッチコピーとして脈々と受け継がれている。
同社敷地内の地下水源からは日々2,000tもの水が湧き出ている。この水は商品の製造に使われるだけでなく「力水(ちからみず)」という商品名で一般販売されている。今でこそ「日田天領水」などの地下水の価値は知られる。しかし、「蛇口をひねれば水が手に入るのに、なぜわざわざ買うのか」という風潮があったのは記憶に新しい。もち吉の店舗では力水がペットボトルで販売されているが、直方本店では隣接の蛇口から有料で水を汲むことができる。
また、この水は92年3月場所以降、大相撲の「力水」として無償で提供されている。力水とは取り組みに勝利した力士が次の取り組みに挑む力士に対して「力」を与える水のこと。それにあやかることができるというブランディングが消費者の心理に刺さり、現在ではECショップでのサブスクサービスも提供されている。まさに、水に付加価値をつけ販売する企業の草分け的な存在だ。
2021年3月16日、同社の初代代表・森田長吉氏の娘・恵子氏が代表取締役に就任。65年間牽引したカリスマの後で、今後の旗振りに期待が寄せられている。なお、長吉氏は22年7月21日に死去しているが、同氏が出演するCMは現在も映画の本編前CMとして映画館で見ることができる。
グループ企業は、製造部門の(株)森田あられ、不動産管理部門の森田製菓(有)、製造委託部門の(株)えくぼ屋、広告代理業の(株)もち吉エージェンシーの同社を含めて5社。商品の製造表示を見てみると、販売者がもち吉、製造元は森田あられとなっている。えくぼ屋も小売を中心に手がけるが、アイテム数を絞り込んだ別業態を展開する。直方本店以外は岩田屋本店(中央区天神)をはじめとして鶴屋やそごうなど、百貨店内でのテナント販売が中心となっている。「おかき・おせんべい専門店」と銘打ち、ブランディングを構築している状態だ。
店舗展開はすべて「直営」
現在は売上高200億円を超える同社だが、02年2月期においては売上高113億2,884万円に対して借入金が30億5,991万円にのぼり、1億2,378万円の債務超過状態にあった。その後、利益は増減しているものの、増収基調にあり15年2月期には同社初の売上高200億円を突破。この転換点となったのは「直売店の展開」だ。23年3月現在、同社がもつ店舗は233件。このほとんどがロードサイドの店舗となっており、直近1年間においては全国で4店舗がオープン(移転も含む)、4店舗が閉店している。店舗はすべて直営。大量かつ安価、卸に比べて高い粗利を確保できる。そのほか、ECサイトを通じた販売も行っており、直営店舗での販売と合わせて利益を得やすいビジネスモデルを確立している。
また、店構えからも同社の経営方針が垣間見える。企業や商品のブランドイメージは「商品そのもののイメージ」だけでなく、「店舗のイメージ」も重要な構成要素となる。高級感を打ち出す店舗の場合、ゆとりのある空間づくりで1つひとつの商品をじっくり見ることができるが、同社の店舗の場合はその逆。一見雑多な空間だが、その敷居の低さから、どのような人でも気軽に訪れることができる肌馴染みの良い雰囲気が生み出されており、お徳用パックの販売などで自家消費にも注力している。
米菓がもつ3つの強み
せんべいやあられなど、「米菓自体がもつ優位性」も同社の強さをより裏付ける。
1つ目の優位性は「原価」。農林水産省が発表する「米の相対取引価格(通年平均)」(円/玄米60kg(税込))によると、19年産の米の全銘柄平均は1万5,716円となっており、コロナ禍以降は20年産が1万4,529円、21年産が1万2,804円で推移。他の菓子業界が原材料の高騰で苦しむなかで、米価相場は下がっている。米菓は使用される原材料が洋菓子などに比べ少ないため、他の菓子類に比べ製造コストが抑えやすい傾向にある。同社ではその分使用する素材にこだわっており、全商品に国産米「コシヒカリ」を使用。加工するまでもなくおいしいコシヒカリを使用することでその味を担保している。同社は贈答品としてのヒットが長年の人気につながっており、自家消費と贈答用という双方のニーズを叶えた成功例となっている。同社を代表する商品「餅のおまつり 小缶」は王道のサラダ味14枚、醤油味14枚の合計28枚入りで1,350円(税込)。1枚あたり48.2円となり、費用は抑えたいが数は欲しいという贈答品としてうってつけのコスパだ。
2つ目の優位性は「日持ち」。他の菓子類に比べ、日持ちの良い米菓。同社で販売される商品の多くは賞味期限を「製造日より100日」と設定している。筆者が2月10日に購入した商品の賞味期限は「4月18日」となっており、店頭に並んだものでも2カ月近くの余裕があった。洋菓子に比べ安価に購入できる米菓は「日持ち」という点においても贈答品として優れている。
3つ目の優位性は「物流コスト」だ。日持ちが良いことによって物流コストを抑えられる。生菓子の場合、冷蔵・冷凍車を使用しなければならないため、通常輸送よりもコストがかかる。自ずと商圏が限定されてしまう生菓子に比べ、米菓は広い商圏をもちやすい傾向にある。
今後懸念する要素となるのは、油の価格だろう。調理油の価格は近年上昇しており、短期間で価格は約2倍となった。米菓に揚げ作業は必要不可欠であるため、原価管理の難易度が上がっている。とはいえ、今後も大きな米価変動は見込まれておらず、菓子業界において米菓だけは違う様相を見せることとなるだろう。
今後の動向 インバウンドへの影響力も
今年2月某日の12時ごろ、博多本店には2人連れの外国人観光客が来店中だった。店員によると、最近は韓国人観光客が急増しているという。博多本店は福岡市地下鉄空港線・祇園駅1番出口前に位置しており、同駅が博多駅と地下通路でつながっているため、雨天時も濡れることなく徒歩移動が可能。全店舗のなかでも屈指の利便性を有している。近年、米菓業界でも海外への進出が見られ、亀田製菓は北米・中国市場に、岩塚製菓もまた中国市場への進出・販売拡大に取り組んでおり、世界的な健康志向の高まりや日本食ブームに合わせた展開が加速している。
また、もち吉は今年、「もちだんご村モール」を開業も控えている。直方本店近くの土地に約2万坪という敷地を確保しており、ホームセンター「CAINZ(カインズ)」が福岡県内2店舗目として出店するほか、スーパーマーケットのフードウェイ、ドラッグストアのドラッグ新生堂がテナント入居を予定している。商業施設は現在建設中で、夏の開業が見込まれる。
長吉氏の死去から約半年。直近1年間の出退店の数は8店舗にとどまっているが、今の米菓市場を握っていることは間違いない。しかし、福岡県以外の地域において出店余地が少ないことや、ECサイトが発達・普及したことによって地方の小規模事業者の提供する商品を離れた場所から注文することができるようになり、ライバルとみなす事業者の数が急増したことは見過ごせない現実として迫っている。現況を踏まえ、どのように戦っていくか。そして、福岡トップの米菓メーカーとしてその座を守りきることができるのか。経営陣の手腕が問われている。
【杉町 彩紗】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:森田 恵子 ほか1名
所在地:福岡県直方市大字下境2400
設 立:1983年3月
資本金:1,000万円
売上高:(22/2)220億2,505万円
URL:https://www.mochikichi.co.jp/法人名
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