2024年12月23日( 月 )

終わりに近づく意義不明の金融引き締め(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は3月13日発刊の第328号「終わりに近づく意義不明の金融引き締め~SVB破綻が米国株高の起点になる可能性~」を紹介する。

(1)VB破綻の含意⇒金融引き締めの副作用顕在化

 強烈な金融引き締めの副作用が、SVBの破綻により顕在化した。全米16位、総資産2,090億ドル(28兆円)の中堅銀行 SVB(シリコンバレー銀行グループ)が破綻し、公的(FDIC)管理となった。SVBはシリコンバレーの金融エコシステムの中核企業で、リーマン・ショック以降で最大の銀行破綻となったが、その影響は限定的との見方が一般的である。であれば、この株価急落場面は買い場ということになる。

 伝統的な商業銀行のビジネスモデルは、短期金利で預金を受け入れ、より金利の高い貸し出しや長期債券などで運用することで利ザヤを得ようとするものである。しかし、2022年の急激な利上げにより長短金利が逆転(逆イールド)し、伝統的な銀行ビジネスは過去20年間で最大の逆ザヤになった。

 SVBは、シリコンバレーのスタートアップ企業がベンチャーキャピタルなどから調達した資金の一時的滞留場所として急成長を遂げ、それを米国国債などの長期資産として運用することで利ザヤを得てきた。しかし長短金利逆転による逆ザヤ化と、国債など長期債券の値下がりにより、潜在的な損失が発生し、預金者の引き出し(取付け)が起きて、公的管理の下に入ることになった。しかしSVBは特殊であり、他行に火の粉が飛ぶことはないとの観測が一般的である。

 (1)SVBは資金調達の90%が預金であるのに対して、JPモルガン、バンカメなどの金融機関は6~7割と低く調達コスト上昇の影響は軽微、(2)SVCは大半の資産を金利固定の長期債券に投資しているが、他行は広く多様化している、等の理由による。とはいえ、逆イールドが続けば、銀行の収益と資産価値は棄損され、いずれは金融の安定性が損なわれることは間違いない。預金の受け入れにより融資業務を行う預金金融機関(Depository Institution)のビジネスモデルは成り立たなくなり、収益は大きく傷つくだろう。SVBの破綻は米財務省の迅速な対応により解決されるとみられるが、FRBは今の急激な利上げのリスクを深く認識したに違いない。

図表1: 米国イールドカーブ推移(10年債利回り-FFレート)/図表2: SVBの主要貸借項目(預金、 保有証券、 貸付)の推移

(2)実は意義不明の金融引き締め

 このように利上げの弊害が顕在化したが、では金融引き締めの効果は? となると大いに疑問が高まる。まず利上げにもかかわらず長期金利がピークアウトしており、経済全体の資金コストは上昇していない、ゆえに景気にはブレーキになっていない。

 金融環境指数(Financial Condition Index)は2022年の秋口以降改善している。まさに2005年にグリーンスパン議長が謎(Conundrum)といった現象が依然として続いているのである。

 なぜ、長期金利は上昇しないのか。(1)市場はインフレを一過性と見ている、(2)企業の超過利潤などによる恒常的資金余剰など、構造的要因が働いている、と見るほかはない。2022年半ばにかけてTIPS(インフレ連動債利回り=実質金利)が上昇したが、それはインフレ懸念ではなくFRBの利上げに影響された可能性が濃厚である。

 図表4に見るように期待インフレ率はすでに沈静化しているのに、実質金利(TIPS)が高止まりしているのである。長期的自然利子率(=景気に中立となる実質金利)が低下していることが、強く示唆される。その背景には、IT・NET・AIによる技術革命があるのではないか。つまり財・サービス価格が技術進化によって急激に低下し、資本生産性が高まっているからと考えられる。金利低下要因として一般的に指摘される生産性の低下、潜在成長率の低下とはまったく逆のことが起こっている、のではないだろうか。

 こうした条件の下でさらに利上げを続ければ金融システム不安が高まり、長期金利はさらに低下するだろう。利上げの正当性が強く疑われる状況である。

図表3: 米国名目GDP成長率と長短金利推移/図表4: すでに沈静化した期待インフレ率

図表5: 米国10年国債利回りの推移(名目利回り、コアCPI実質利回り、TIPS)/図表6: 米国企業の資金余剰

(つづく)

(後)

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