【特集 建設業界と労働災害】徹底された安全管理もおよばない個人の判断 元請はどこまで責任を負えるのか
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福岡県下の有力ゼネコン、照栄建設(株)が代表の照栄・博栄JVが施工を担う「令和4年度市営板付住宅新築工事」(福岡市発注、落札額:7億500万円(税別))の現場で、3月2日、現場作業中だった会社員・田中義夫氏 (34)が死亡した。福岡県警察と労働基準監督署(以下、県警・労基)による調査終了後には、発注者である市との協議が待っており、ゼネコンが被る時間的損失は多大だ。現場における安全管理は至上命令だが、現実問題として、元請はどこまで責任を負えるのか、今回同業の3社に話をうかがった。
地場ゼネコンA社(以下、A社)
地場ゼネコンB社(以下、B社)
地場ゼネコンC社(以下、C社)届かなかった作業員への注意喚起
──今回の作業員死亡の報道を受けての、率直な感想をお聞かせください。
A社 報道を受けて、最初に抱いたのは「どうしてこんなことが」という疑問でした。吊り荷の下に入らないというのは、数ある危険予知(以下、KY)活動のなかでも初歩的な部類であり、基本的には起こりようがないものだと考えていたからです。他山の石とせずに、当社の各工事現場においても周知し、改めて安全対策への意識向上を図りました。
B社 第一報では、クレーンで吊り上げられた鉄製の荷が落下し、男性作業員がその下敷きになり亡くなられたとありました。荷の下に入らないというのは基本中の基本であり、クレーンに荷をかける玉掛け作業も有資格者が行う必要があることから、吊り上げた際に荷がバランスを崩すというのも考えにくい。「なぜそんなことに」というのが率直な感想でした。報道内容はすぐに各現場監督とも共有し、注意喚起を促しました。
C社 当社でも報道内容は即座に各現場監督と共有しました。今回の出来事は決して他人事ではありません。明日は我が身ですから。情報共有を行うなかで、「シートパイルのトラックへの積み込み作業中の出来事だったようだ」という話が聞こえてきました。作業にあたる当人のキャリアを含め、人員配置は適切だったのかなど、再発防止のために検証すべき点は少なくありません。
B社 積み込み作業中だったということであれば、やはり人員配置に問題があったのかなと思います。たとえば、通常2人以上で行うべき作業を1人で行っていたとなれば、当然荷崩れなどの事故発生のリスクは高まります。
A社 監督は現場を管理するなかで、工期と品質、安全と予算を限られた時間で忙しく管理します。しかし、どんなに忙しくても安全衛生管理だけは怠ってはいけません。毎朝の朝礼で実施するKY活動を形骸化させないことを、当社でも改めて肝に銘じる必要があります。
C社 問題の作業前には、現場監督が作業員に直接注意喚起を行っていたという話もあります。事実であれば、大変悔やまれると同時に、どこまで安全衛生管理を徹底すればよいのかという問題が生じます。各ゼネコンはすでに可能な限りの安全衛生管理に努めているため、県警・労基の現場調査終了後に出される是正勧告に、どのような改善事項が記載されるのか、その内容が非常に気になるところです。
──もしかしたら気の緩みがあったのかもしれません。
B社 お昼休憩の後は、経験則からも気が緩みやすいといえます。ただ、今回の件に関しては事故発生時刻が午前10時48分ごろと、現場作業開始から比較的早い時間帯であり、意外だなと感じました。
C社 朝礼では当日の作業内容の確認も行います。この作業にはこういう危険がともなうから、こういう点に注意するようになど、あらかじめ注意事項も共有します。午前中であれば朝礼の内容もまだ記憶に残っていると思いますので、慣れからくる油断があったのかもしれません。
人手不足は言い訳にならない
──建設業界は慢性的な人手不足に悩まされており、もしかしたらそのことも原因の1つではないかと考えてしまうのですが、いかがでしょう。
A社 本来必要な人数を配置できていなかったという可能性はありますが、人手不足は言い訳にはなりません。安全に配慮する義務を負っている以上、どのような状況であれ、現場で起きたことには責任があります。当社でも定期的に安全講習会や、安全対策の研修会を開催していますが、こうした取り組みを地道に積み重ねていくことが、やはり大切なのではないでしょうか。
C社 総合評価方式による市の発注工事ということもあり、技術者の人数に関しては厳しく管理されていたと思いますが、実際の作業状況までは目が行き届いていなかったということになると思います。現場監督は工程管理から業者の手配、施工計画の調整など、担う業務が多岐に渡りますので、やはり作業員各員が事故を起こさないように、相互に気を配り、声をかけ合うことも大事なんじゃないかなと思います。
B社 建築工事は土木工事以上に荷の移動も多いですし、市の発注工事ということもあり、安全面で求められる水準も相応に高いものだったと推察されますが、豊富な実績を有するからこそ、気の緩みがあったのかもしれません。
──同じ照栄・博栄JVで市発注の「令和元年度市営弥永住宅(その2地区)新築工事」を手がけており、同様の工事での実績はたしかにあります。
C社 今回の事故は総合評価方式で減点対象となるでしょうが、市は総合評価方式の評価点の最大値の変更を行う予定なので(4月以降)、影響は最小限に収まると思っています。実際、過去に市発注工事で死亡事故やトラブルを複数回起こしたゼネコンも、現在では問題なく大型案件を落札しています。
A社 先述の通り、安全衛生管理の徹底がなされていれば、現場での事故は未然に阻止できる可能性が高まります。市では市営住宅の建替事業に取り組んでおり、関連工事の発注が今後数年先まで続いていくなか、少なからず影響は出てくると思われます。ただ、どの現場でもこうした事故が起きてしまう可能性があり、その可能性を限りなくゼロに近づけるためにも、安全衛生管理の徹底と、安全意識を高める行動を根気よく繰り返していくしかないと思います。
【文・構成:代 源太朗】
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