晋三死すともアベ呪縛政治は続く 政権交代が日本再生の鍵(後)
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村上誠一郎元大臣の国賊発言、「財政、金融、外交をボロボロにし、官僚機構まで壊して、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に選挙まで手伝わせた。私から言わせれば国賊だ」はまさに「国賊」と呼ぶに値するアベ政治の問題点を列挙したものだ。しかし安倍忖度政権とも呼ばれる主体性なき岸田文雄首相は国葬で元首相を神格化し、悪しきアベ政治をそのまま継承しようとしている。死してもなお現政権を縛り続けているようにも見える安倍晋三元首相。だからこそ、日本政治の再生には政権交代が不可欠なのだ(2022年末執筆。日付はとくに断りがない場合22年時点でのもの)。
安倍元首相の正体
その一方でメディアは“闇”の部分を照らし出していった。韓国MBCテレビが8月30日に放送した「PD手帳 安倍、銃撃犯そして統一教会」は、旧統一教会取材歴40年の有田芳生・前参院議員が勧める特集番組だが、表の顔と裏の顔をもつ2人―愛国者面をした国賊のような安倍元首相と教祖面した守銭奴紛いの韓鶴子総裁―のおぞましい姿を浮き彫りにするものであった。慰安婦問題など日本の植民地支配の加害責任を否定してきた安倍元首相が不可解なことに、慰安婦問題などの贖罪意識をネタに日本人から高額献金を集めていた旧統一教会とズブズブの関係を築き上げ、韓総裁を称えるビデオメッセージまで送っていたのだ。『産経新聞』(10月29日付)は「旧統一教会問題、“沈黙”の保守に矜持はないのか!」と銘打った記事で疑問を呈していたが、私が行き着いた答えは、「安倍元首相は保守の矜持をかなぐり捨てた無節操なエセ保守だった」である。
安倍元首相の最重要事項は、国政選挙での勝利(権力の維持)であったに違いない。だからこそ正反対の歴史観を持つ旧統一教会であっても、自民党への選挙支援をしてくれる“アベ友教団”として関係を続ける一方、自らも広告塔になってお墨付きを与え、高額献金の規制に踏み切ることもしなかった。韓国教団への国富流出よりも政権与党であることを優先したのだ。
一方の韓総裁率いる旧統一教会は献金至上主義。バイブルともいえる原理講論に悪の国・日本の加害責任(慰安婦問題や徴用工問題など)を明記して日本人信者に贖罪意識を植え付け、高額献金はもちろん合同結婚式で結ばれた韓国人男性に尽くすことも求めた。慰安婦問題否定の歴史修正主義者だらけの自民党への選挙支援は矛盾するように見えるが、献金額最大化が最優先課題と考えると、この謎も氷解する。
結局、選挙至上主義の自民党と献金至上主義の旧統一教会の合体―その象徴的映像が安倍元首相の韓総裁称賛ビデオ―こそが、信者の家庭崩壊などの被害拡大を招いて銃撃事件の引き金となったと考えられるのだ。
ちなみに「外交をボロボロにし」(村上元大臣)の部分も紛れもない事実だった。国葬では「地球儀を俯瞰する外交」と称賛されていたが、北方領土交渉では2島先行返還すら実現しなかった。「同じ未来を見ている」と厚い信頼関係をアピールしたプーチン大統領を地元山口県の温泉宿にも招くなど日露経済協力に力を尽くしたにもかかわらずだ。トランプ大統領(当時)との蜜月関係もアピールしたが、初面談後早々に頼まれたカジノ法案を成立させ、イージス・アショアなど米国製高額兵器を爆買いするなど、「米国益ファースト日本国民二の次」の姿勢が露わになっただけだった。慰安婦問題や徴用工問題などで日韓関係は戦後最悪にもなった。外交政策においても「国賊」と呼ばれても仕方がない失政のオンパレードだったのだ。
経済・外交・内政などで失敗続きだった安倍元首相を国葬で神格化し、アベ政治から脱却しようとしない岸田政権(首相)のままでは、国民の生命や財産が脅かされるリスクは高まる。そんな岸田政権は1日も早く打倒し、政権交代を実現した方がいいに決まっているのだ。
変わりつつある選挙の潮目
幸いなことに旧統一教会問題が重要選挙に影響を与え始めている。自民党が「天下分け目の決戦」と位置づけていた「沖縄県知事選」(9月11日投開票)では、現職の玉城デ二―知事(立民・共産・れいわ・社民・沖縄社大党推薦)が、元宜野湾市長の佐喜眞淳候補(自公推薦)と前衆院議員の下地幹郎候補を破ったのだ。当確直後に玉城知事に、「旧統一教会問題は追い風になったと思いますか」と聞くと、「多分、なっているでしょう」と即答。県政ウォッチャーは、「旧統一教会問題が直撃した選挙戦」と総括し、次のように続けた。「7月の参院選沖縄選挙区では、自公支援候補が現職の伊波洋一参院議員に約3,000票差まで迫ったのに、沖縄県知事選では6万票以上の差がついた。参院選後に急浮上した旧統一教会問題が逆風になったとしか考えられない。」
参院選沖縄選挙区と沖縄県知事選に共通する対立軸は、軍拡邁進の岸田自民党が推す新人候補を選ぶのか、それとも平和外交路線を目指す現職を選ぶのかということだったが、いずれも自民党は敗北。しかも野党系候補との票差が開いてアベ政治が否定されたかたちとなり、意気消沈する選挙結果となった。
自民退潮の兆しは、再選挙となった「品川区長選(12月4日投開票)」でも現れた。6候補が競い合うなかで、元都議でかつて都民ファーストの会に所属していた森沢恭子氏が10月の区長選から約1万3,000票も増やして4万票超で当選する一方、自民党推薦の石田秀男・元区議は約3,000票減らし約2万3,000票で落選したのだ。街宣で石田氏は、「前回(10月)は国葬や旧統一教会問題で自民党の名前を出さずに戦ったが、今回は『自民党推薦』と街宣車にも書いた」と訴えていた。有権者の再々選挙を避けようという心理が前回1位の森沢氏の得票増の要因となったのは間違いないが、石田氏が自民党色を強めても得票増に結びつかなかった事実は重い。
第3位の山本康行候補の応援演説をした保坂展人・世田谷区長は「野党系候補が何人も立候補するなかで自民系候補が勝てないことに注目すべき」と語った。たしかに1つの席を争う衆院選小選挙区や参院選1人区では、野党系候補を一本化しないと自民系候補に勝利することは困難だが、品川区長選では野党系候補乱立でも自民推薦候補が敗れた。旧統一教会や国葬の問題が岸田政権を直撃、内閣支持率が過去最低を更新し続けた結果、重要選挙に悪影響をおよぼし始めたとしか見えない。
23年春の統一地方選でも自民党が大敗する事態は十分に考えられる。国政選挙で実働部隊となる地方議員が激減すれば、次期総選挙における政権交代の可能性も高まってくる。安倍元首相の呪縛から逃れられないような岸田政権が続く限り、日本をボロボロにしたアベ政治から脱却することは困難であることを、改めて認識してほしい。
(了)
【ジャーナリスト/横田 一】
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