2024年11月24日( 日 )

五輪エンブレム撤回!問題はパクリ・デザインだけではない

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tokyo アートディレクターの佐野研二郎氏が制作した五輪エンブレムが、発表からわずか1カ月余りで撤回され、オリンピックというスポーツの祭典の頂点をめぐって、「日本の恥」が世界を駆け巡った。大会組織委員会が9月1日、使用中止と撤回を発表した。盗作疑惑がもちあがった佐野氏は、7月24日にエンブレム発表の喜びのポーズとは打って変わって、ホームページにコメントを掲載しただけで、会見の場など主要報道機関の前に姿を見せなかった。

 エンブレムは撤回されたが、スポンサー企業がCMなどで利用し、東京都などはエンブレムが印刷されたポスターを作成し都庁などに張り出していた。損害賠償や再公募費用の負担など、責任問題は一件落着とは程遠い。
 海外からの報道によれば、盗作だとして使用差し止めを訴えていたベルギーのデザイナー、オリビエ・ドビ氏は国際オリンピック委員会が盗作を認めるまで裁判を取り下げない考えだという。国際問題にまで発展し、パクリ疑惑の佐野氏の道連れとなって、日本の信頼も失われた。

 今回、飲料メーカーのプレゼントのトートーバッグのデザイン模倣疑惑、エンブレム応募作品(原案)そのものの盗作疑惑、エンブレム使用例の画像の盗用など、佐野氏が手掛けた数々の作品に盗作、模倣疑惑が浮上した。一連のパクリ疑惑が一気に特定されたのも、ネット社会だからだ。さまざまなデータがネットに記録保存され、世界中に拡散され、ネット利用者がその情報を利用して、分析解析、追跡する。ネット社会では、いったん記録されたデータが抹消されない限り、佐野氏がどんなに言い繕っても逃れられなかった。
 佐野氏の弁明や、ロゴマークやCI制作関係者の話によると、佐野氏本人は「アートディレクター」「クリエイティブディレクター」の肩書が示すように、デザイナーを下請けに使う「ディレクター」であって、プロのデザイナーではなかったというのが実態に近いと思われる。そもそもディレクターとしてアイデアを出すだけなら、実際の制作にあたってインスピレーションを借用することと、盗作の区別がついていない恐れがある。数々のパクリ疑惑をみれば、デザイナーとしての力量にも疑問が出るし、五輪エンブレム応募でも、使用例の画像の盗用など提案のズサンさも目立つ。
 ネット住民を佐野氏のパクリ暴露に駆り立てたのは、佐野氏らのおごりに対する批判・反発があったからだ。

 佐野氏は、美大出身で、広告代理店を経て独立し、華々しい経歴を誇ってきた。大会組織委員会が盗作疑惑発覚後、「問題ない」と発言してきたため、一般国民の感覚として、広告代理店が仕切った出来レースだという疑問が出たのも自然だ。
 ここまで信頼が失墜したのは、単にデザインの問題だけでなく、問題の根が深い。オリンピック成功の裏側に広告代理店があることは知られている。オリンピックという巨大ビジネスの構造的問題にも目を向けるべきだ。広告の力でメディアを事実上押さえている広告代理店にとって、エンブレム模倣疑惑は、やがて沈静化できるはずの問題だったろうが、ネット世界の住民は、そういうおごりに対して、ますます批判・反発を強めた格好だ。

 エンブレムが撤回されたこの期に及んでも、佐野氏は事務所のホームページ「模倣や盗作は、原案に関しても、最終案に関しても、あってはならないし、絶対に許されないことと今でも思っております。模倣や盗作は断じてしていないことを、誓って申し上げます」とコメントしているが、佐野氏の信頼回復は絶望的だ。問題は、日本の信頼回復だ。
 五輪エンブレム撤回という前代未聞の責任の所在をあいまいにしたまま、2020年東京オリンピックを開催したら、「日本の恥」を再び世界にさらすことになる。

【山本 弘之】

 

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