国際政治学者 和田大樹
6月のイスラエルによるイランの核施設などへの空爆、それに続くトランプ政権下での米国初のイラン空爆は、中東情勢に新たな緊張をもたらした。トランプ大統領が停戦を発表し、現時点で両国間の軍事衝突は一時的に収束しているものの、イランの核開発をめぐる問題は依然として解決しておらず、日本企業にとって中東リスクは依然として残っている。
イスラエルとイランは長年にわたって犬猿の仲であるが、イランの核開発計画はイスラエルにとって国家安全保障上の最大の脅威と見なされており、イスラエルはこれまでにもイランの核関連施設へのサイバー攻撃や秘密裏の破壊工作を行ってきたとされる。今回の空爆は、こうした対立が軍事行動として表面化した最新のケースである。
一方、イランは核開発が平和利用を目的としていると主張し、国際社会の制裁や圧力にもかかわらず、核開発を進める姿勢を崩していない。イスラエルによる空爆で複数の核関連施設や軍事施設が破壊されたことで、イラン国内では反イスラエル感情が高まり、核開発の再開を求める声も強まっている。こうした状況下で、トランプ政権による空爆は、イランに対するさらなる圧力として機能したものの、根本的な解決にはまったくつながらない。
6月のトランプ大統領による停戦発表により、イスラエルとイランの直接的な軍事衝突はいったん収まった。しかし、この停戦は一時的なものであり、両国間の根深い対立を解消するものではない。イランは核開発の放棄を明確に否定しており、破壊された施設の再建や新たな秘密施設の構築を進める可能性がある。実際、過去にもイランは国際的な監視を回避しながら核開発を進めてきた経緯があり、今回の空爆が逆にイランの核開発への意欲をさらに高める結果となったとの声も聞かれる。
さらに、イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの核開発が再開された場合、さらなる軍事行動をためらわないと明言している。イスラエルは、過去の空爆がイランの核開発を遅らせた成功体験を背景に、核開発の初歩的状況でも積極的に空爆を仕掛ける可能性が高い。このような軍事行動は、短期的にはイランの核開発を抑制する効果をもつが、さらなる反イスラエル感情の広がりを誘発するかもしれない。
今後、イランが核開発を再開する場合、イスラエルによる追加の空爆が実施される可能性は極めて高い。このシナリオは、軍事衝突の連鎖を再び引き起こし、中東地域全体に波及する恐れがある。トランプ大統領がイランへの第二、第三の空爆に踏み切る可能性もあり、中東地域と深い関係を有する日本企業としては、今回の停戦は極めて表面的なものであり、軍事的応酬が再来するリスクは常に念頭に置いておく必要がある。そして、重要な視点としては、イランが先制的な軍事行動に出る可能性は極めて低く、第一に注視すべきはネタニヤフ政権の出方であり、それによって中東リスクは大きく変わってくる。
<プロフィール>
和田大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap