2024年12月23日( 月 )

種子法廃止違憲訴訟が全面敗訴、「これからが闘い」と原告側

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 主要農作物種子法(種子法)が2018年3月末に廃止されたことの違憲確認や、同法廃止による被害への国家賠償などを求めていた訴訟の判決が3月24日、東京地方裁判所103号法廷(品田幸男裁判長)であり、すべての請求を退けた。原告は控訴する方針。

【写真①】入場する原告・弁護団(3月24日筆者撮影)
入場する原告・弁護団(3月24日筆者撮影)

 この訴訟は「TPP交渉差止・違憲訴訟」の第3次訴訟として、原告1,315人が19年5月に起こした。「TPP交渉差止・違憲訴訟」は18年1月の控訴審判決で種子法廃止について「背景事情の1つにTPP協定に関する動向があったことは否定できない」と認めたことを受けている。

 種子法は1952年、食糧増産という国家的要請の下、コメ、麦、大豆の安定供給を図るため制定された。各都道府県に地域に合った優良品種の開発や試験などとともに、圃場(ほじょう)を指定してそれら優良品種の原種・原原種の生産を義務付けてきた。

 原告の主な請求は、(1)種子法廃止法が違憲であることの確認、(2)原告A(一般農家)が種子法に定められた諸々の措置を経て生産された種子を用いて主要農産物を栽培できる地位にあることの確認、(3)原告B(一般消費者)が同農産物の供給を受ける地位にあることの確認、(4)原告C(採取農家)が、自らの所有する圃場が種子法に定められた「種子生産圃場」として都道府県によって指定される地位にあることの確認、(5)被告の国は原告らに対して各1万円を支払う──。

 判決は(1)の違憲確認と(2)および(3)の地位確認を「不適法」として却下し、それ以外の(4)採取農家の地位確認と(5)損害賠償などを「理由がない」として棄却した。(1)について原告は憲法25条の生存権には当然「食料への権利」が含まれていると主張していたが、判決文では「(種子法は)個々の国民に対して食糧増産にかかる権利を具体化したものではない」との解釈から、「侵害されたということはできない」と確認を退けた。

 田井勝・弁護団共同代表は裁判後の報告会で、「不当判決」と断言した。「種子法廃止でさまざまな被害が出ている」として、第4回口頭弁論で原告A(一般農家)の館野廣幸さんが栃木県で水稲の原種価格が3倍以上に高騰したと証言したことや、第8回口頭弁論で代理人の平岡秀夫弁護士が同法廃止後に主要農産物種子事業に対する財政措置が大幅減額されたと証言したことに触れ、「いかなる被害が生じてきたかは1つの争点だが、そこは全く書いていない。18年の廃止後どうなったかは判断せず、それより前に種子法に基づく権利があるかというところで切っている」と批判。

 「控訴審では実体的被害があることに向き合わない裁判所とはどういうことかを訴えようと思う」と、控訴する考えを示した。

熱心な原告側VS反論しない国側

 4年近くにおよんだ裁判で、原告3人と証人3人が法廷に立ち、被害実態や違憲性を訴えた。第6回口頭弁論では証拠映像も上映され、裁判官も視聴した。映画『タネは誰のもの』監督の原村政樹さんが制作した21分のDVDで、気の遠くなるような品種改良の作業や丹念な異株の除去作業の様子が紹介された。

【関連動画】門前集会で演説する原告・代理人(3月24日、筆者撮影)

 同法廃止の深刻な影響を伝えようとするこうした原告団の熱心な姿勢に対し、被告の国側は「原告の主張する権利は保障されていない」と裁判の入り口論での主張に終始。歴代3人いずれの裁判長からも「被告は反論しないと不利になりますよ」と促す異例の対応が見られたが、「その必要はないので、早期に結審を」と迫る始末だった。

 原告は22年10月7日の結審までに1,533人に増えた。終了後、インターネットを通じ、本裁判の公正判決を求める署名を呼び掛けた。5万3,724筆を集め、裁判長に提出したが、聞き入れられなかった。判決日には約120人の傍聴希望者が集まり、建物の外では抽選を外れた市民が雨のなか、結果を待った。原告側は代理人を含め15人が入廷したが、被告の国側は2人だけ。裁判官を身内と思って楽観視しているのか、異常なやる気のなさが目に付いた。

 報告会で、原告B(一般消費者)の野々山理恵子・パルシステム東京顧問は「悲しい。門前払い。国からちゃんとした反論を聞いたことが1回もなかった。裁判長から『不利になることもある』と催促されても、その後もなかった。肩透かしというか、見下されている。国会で議員が証拠を求めても無視するくらいだから、私たちの訴えを無視するのもしょうがないのか」と無念さをにじませた。

次の問題は、農家の種取り禁じる種苗法

 弁護団共同代表の山田正彦・元農水相は報告会の最後、官僚が国会議員にまともな情報を出さなかった実態に触れ、「自民党の代議士のなかにも官僚にだまされたというのを実際に聞いた」と証言。「これからの問題は20年12月に改正され22年4月から完全施行された種苗法だ」と提起した。農家が自家採種する際も育成者権者の許諾が必要となっていて、23年度から監視が始まるという。

【写真②】報告集会で判決について評ずる田井勝弁護士(右から3人目)ら(3月24日筆者撮影)
報告集会で判決について評ずる
田井勝弁護士(右から3人目)ら
(3月24日筆者撮影)

 種子法廃止と同時にできた農業競争力強化支援法は、独立行政法人の試験研究機関や都道府県が持つ種苗生産の知見を民間に提供することを促す。すでに茨城県では農研機構のカンショの「紅はるか」に原因不明の連作障害が発生したため、JAも農家も民間から高額な苗を買わなければならない事態が生じていることを紹介。

 「種イモを残し、自家増殖したら、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、共謀罪の対象になる。農水省に今年中、弁護士事務所と対応機関が設置され、取り締まりが始まる」と警告。「ところが、メディアは全く報じない」と批判した。

 そのうえで、今回の判決文に「憲法二十五条一項にいう『健康で文化的な最低限度の生活を営む権利』の実現に向けて、一定の衣食住の保障が必要となることは否定できない」との記述があることに言及。「生存権に基づく『食の権利』については否定できないと踏み込んで判断したことは間違いない。だから、今回の判決は一歩前進。そういう意味でも、これからが闘い」と鼓舞した。

【ジャーナリスト/高橋 清隆】

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<プロフィール>
高橋 清隆
(たかはし・きよたか)  
 1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)、『山本太郎がほえる〜野良犬の闘いが始まった』(Amazonオンデマンド)。ブログ『高橋清隆の文書館』

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