2024年08月01日( 木 )

カシオ計算機、創業家以外から初の社長にG-SHOCKを手がけた増田裕一氏(前)

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 創業家が否応なしに向き合わざるを得ないのが事業継承の問題だ。同族以外の社長を誕生させ、同族脱皮するかの決断を迫られる。

 カシオ計算機(株)は増田裕一専務執行役員(68)が4月1日付で社長兼最高経営責任者(CEO)に昇格。創業家の樫尾和宏社長(56)は代表権のある会長に就いた。創業家以外から社長に就くのは初めて。だが、57歳から68歳へのトップ交代は若返りに逆行する。一体、何があったのか。

創業家より11歳年上の非同族へのバトンタッチ

G-SHOCK イメージ    新社長・増田裕一氏は、1978年3月慶應義塾大学工学部を卒業、カシオ計算機に入社。以来、時計分野の開発・企画を専門としてきた人物だ。

 時計部門では、「スタンダード」と呼ばれる廉価な腕時計を多数販売している。デジタル腕時計は安価ながら高い機能性とデザインで「チープカシオ」と呼ばれるコレクターが存在。なかでも「G-SHOCK(Gショック)」は根強い人気を誇る。

 増田氏は1983年に発売されたGショックの初号機では、プロジェクトのリーダーとして開発に携わった。Gショックについては、あとで説明する。

 創業家の樫尾和宏氏より12歳年上の68歳の増田氏へのバトンタッチには違和感がある。株式市場では「Gショックのような衝撃的なトップ交代」と指摘された。

「カシオ4兄弟」が開発した個人的電卓「カシオミニ」が大ヒット

 カシオ計算機は1946年4月、樫尾忠雄氏が東京都北多摩郡三鷹町(現・三鷹市)に樫尾製作所を創業したのが始まり。長男の忠雄氏が財務、「昭和の発明王」の1人である次男の俊雄氏が開発、三男・和雄氏が営業、四男・幸雄氏が生産を担当。幸雄氏が「全員合わせて一人前」と評したように、個性の違う四兄弟がそれぞれ得意とする業務を手がけ、チームワークで成長させた。

 カシオ計算機の設立は1957年。初代社長は四兄弟の父親が務めたが、1960年に長男の忠雄氏が社長に。1988年から2015年まで三男の和雄氏が3代目社長となり、電卓や時計のニーズを見拭きカシオ製品の販売を世界に拡大した。

 1972年、個人向け電卓「カシオミニ」を発売した。「とかくこの世は計算さ。数と数との絡み合い・・・答え一発カシオミニ」。初めて打ったテレビCMも効果的で、家庭に一気に電卓が普及した。国内の累積販売台数は1,000万台を超え、世界では10億台以上が売れた。カシオ計算機の黄金時代だった。

Gショック開発秘話

 四兄弟の末弟、樫尾幸雄氏は『電卓四兄弟・カシオ「創造」の60年』(中央公論新社、2017年刊)を著した。

 それによると、当時、会社の命運を左右する商品は、すべて現場に委ねられた。入社4年目か5年目の社員がリーダーになり自分ですべて決める。わずか20代半ばの社員がベテランのような顔つきで仕事をした。そんな雰囲気が社内にみなぎっていた。

 カシオミニを発売して2年後の1974年、エレクトロニクス時計に進出した。そのなかから、今に至るロングセラーの腕時計が生まれた。Gショックである。

 始まりは20代の若手社員が出した、たった一行の提案。「落としても壊れない丈夫な時計」──。その一行が仲間を引き寄せ、会社を動かし、のちの大ヒット腕時計Gショックを生み出した。

 当時、カシオのテーマは「軽薄短小」。薄さや小ささを売りにする商品開発に注力していた。「衝撃に強い」というテーマは、社内では注目されなかった。三男の社長・和雄氏が開発にゴーサインを出した。

「Gショック」は米国で軍隊や消防署で使われた

 衝撃に強いタフな腕時計、Gショックは1983年4月に発売された。名前のGはGRAVITY(重力)の頭文字からとった。それから、約10年間、国内では泣かず飛ばずの状態が続いた。先行して売れたのは米国だ。幸雄氏は『電卓四兄弟』にこう書いた。

 〈どれだけの衝撃にたえられるのか、その頑丈さを分かりやすく伝えようと、営業部門が知恵を絞りました。米国のアイスホッケー選手に、パックの代わりにステックで打ってもらう実験をしました。「ちょっとやり過ぎじゃないか」と思いましたが、それを昭和59年(1984)から米国のテレビCMで流しました。

 すると、反響が大きく、「誇大広告ではないか」との声が起きました。公開の場で試してみようというテレビ番組が企画されました。そして、実際に打ってみるとたしかに壊れません。ついでに、車にひいても大丈夫。「これはすごい」ということになり、番組で頑丈さが証明されました。軍隊や消防署など外で働く男たちに使われ、評価が口コミで広がりました〉

 米国人気が日本に逆上陸した。Gショックは発売以来2021年度までに、世界累計1億4,000万個を出荷するロングセラー商品となった。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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