2024年11月21日( 木 )

日航123便訴訟 原告「慰謝料の部分だけ和解」 争点は新証拠の扱い

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 乗客・乗員520人が死亡した1985年の日本航空123便墜落事故について、遺族が同社に生のボイスレコーダーなどの開示を求めた控訴審の第2回口頭弁論が11日、東京高等裁判所808号法廷(土田昭彦裁判長)で開かれた。原告の吉備素子さん(80)が、過去に日航らと交わした和解について、「生活に困っている人がいると言われ、慰謝料の部分だけ和解した」と複雑な心中を明かした。

 2022年10月の東京地裁判決は1991年までに和解が成立しているとして棄却したが、三宅弘・主任弁護士は裁判の後、自衛隊の模擬ミサイルが当たったことを示唆する新証言が出てきたことを挙げ、「真実の一端が示せているのだから、従前の和解の範囲外」と主張した。

 控訴審はこれで結審し、6月1日に判決が言い渡される。

裁判の後、記者らの質問に答える三宅弁護士(2023.4.11筆者撮影)
裁判の後、記者らの質問に答える三宅弁護士
(2023.4.11筆者撮影)

    同訴訟は、①憲法13条に基づく人格権(プライバシー権)と個人情報保護法第28条1項に基づく個人情報開示請求権、②同社国内旅客運送約款に基づく安全配慮義務にともなう信義則上の情報提供義務履行請求権の2つの請求権に基づき、ボイスレコーダーとフライトレコーダーの開示を求めるもの。

 裁判官3人の合議体を採っているが、構成が変わっていた。結審をめぐり異論が起きたことを示唆する。原告側は吉備さんのほか6人の代理人弁護士が、被告側は3人の代理人弁護士が出廷した。約40人が傍聴した。

 吉備さんは「38年間、どうしてこうなった(事故が起きた)か、そればかり考えてきた」と振り返った。日航の発表に疑問が重なり、高木養根(やすもと)社長(当時)や旧運輸省、群馬県警の河村一男本部長(当時)、上野村の故黒澤丈夫村長(当時)に面会したが明快な答えは示されず、集団提訴に加わったものの、修理ミスによる後部圧力隔壁の破壊が原因と説明され、和解が勧告された。

 当時の決断について、「慰謝料を出すので和解しろと言われ、瞬時に嫌だと思った。そのような説明では納得できないから。しかし、弁護士から『生活に困っている人がいるから』と言われ、その部分だけ和解したつもり」と当時の心境を明かした。

 同事故については、被害者遺族に対する分断工作が続いてきた。一審の第1回口頭弁論までいたもう1人の原告、市原和子さん(佐々木祐・副操縦士の実姉)は第2回期日の直前に突然訴訟を取り下げ、連絡が取れなくなっている。

 吉備さんは「ほかの遺族は傷つけられるので、闘うのを怖がっている。それで私は、遺族会を抜けた。これ以上、他の人を誘うことはできない。副操縦士の姉も傷ついたのでしょう。市原さんを気の毒に思う」と苦しい胸中を吐露。「だからひとりで頑張った。よろしくお願いします」と裁判長に公正な判断を求めた。

 裁判長から意見を求められた被告代理人は、「反論書で十分」と述べるだけ。被告側は証拠書類として、遺族との和解を報じた新聞記事しか提出していない。

 判決期日を決めるための休憩を含め、約14分で閉廷した。

 今回の訴訟の最大の争点は、和解の効力を裁判所がどう判断するかだ。和解条項には、「原告らは本件事故に関し、今後、いかなる事情が生じても、被告(ボーイング社)および利害関係人(日航)に対し、一切の異議を述べず、また何らの請求をしないものとする」との記述がある。

 しかし、原告側は新証言・証拠を積み上げた。「真っ赤な飛行機」を見たと記す上野村の中学生の作文集や非番の自衛隊員による「ファントム2機」目撃の手記を載せた群馬県警発行『上毛警友』、相模湾に垂直尾翼の残骸があったとの報道など。

 なかでも控訴審での最大の武器は、13年に運輸安全委員会ホームページで提示された同事故調査報告書の付録。そこには、垂直尾翼に11トンもの外力が作用したとする「異常外力の着力点」の記述があった。

 当時、防衛庁は国産ミサイルを開発中で、相模湾で護衛艦が試運転していた。テスト用の爆薬なしの模擬ミサイルが誤って発射された可能性が指摘されている。

 裁判後、記者に和解の効力について問われた三宅弁護士は、「被告は和解が成立しているから無効だと主張するが、吉備さんは『お金のところだけ和解した』と言っている。この問題は審理されていない」とくぎを刺した。

 遺族との和解の経緯についても、「被告はロッキード社だったところに、最後にJALが出てきて和解しているから、信義則に反する」と指摘。新証言・証拠を挙げて「真実の一端が示せているのだから、従前の和解の範囲外」と主張し、開示を命じるのが当然であるとの見解を示した。

【ジャーナリスト/高橋 清隆】


<プロフィール>
高橋 清隆
(たかはし・きよたか)  
 1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)、『山本太郎がほえる〜野良犬の闘いが始まった』(Amazonオンデマンド)。ブログ『高橋清隆の文書館』

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