2024年11月24日( 日 )

ウクライナ戦争終結に向けて、国連の役割を問い直す(3)

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元国連大使 元OECD事務次長
谷口 誠 氏
名古屋市立大特任教授
日本ビジネスインテリジェンス協会理事長
中川 十郎 氏

 終わりが見えないウクライナ戦争が続くなか、国連はどのような役割をはたすべきか。G20の新興国の勢いが増すなか、米国、ロシア、中国、「ポストチャイナ」と呼ばれるインドはウクライナ問題にどのように関与していくのか。国際経験が豊富な元国連大使の谷口誠氏と日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏が対談した。

日本の将来に必要な教育

左から、元国連大使 谷口 誠 氏、
日本ビジネスインテリジェンス協会理事長
中川 十郎 氏

    ──日本の将来を担う教育について、どのように改善していくことが必要ですか。

 谷口 教育は、日本の将来を決める大切な役割を担っています。岩手県立大学学長を務めていたときに、日本の教育が抱える大きな問題点に直面しました。たとえば、すばらしいノーベル賞レベルの研究は成果が出るまで十数年かかるにもかかわらず、研究の予算となる文科省の科学研究費は、3年という短い単位で成果を報告する必要があります。とくに理工系の基礎研究には時間がかかります。日本は10~20年という長い期間で教育の予算を付けていくべきです。

 加えて、日本の大学の授業料は世界でも最も高い部類に入り、家庭の負担が大きいのです。デンマークやスウェーデン、フィンランドなどの北欧諸国は税金が高いですが、小学校から高校まで授業料がかからない国も多いです。日本の文科省も教育費の予算を多く配分することが必要です。家庭の学費の負担を減らし、誰もが行きたい学校に通える時代にしなければなりません。

 加えて、消費税を10%に上げるなど、政府は税金を「取りやすいところから取る」方針を変えません。しかし、一般庶民の生活に必要な食料や寒い地方での防寒具など、生活必需品はもっと税金を下げることが必要です。

 中川 日本の公的教育支出は、安倍政権下の2021年に防衛予算が教育予算を上回り、防衛予算5兆3,422億円、教育予算が5兆2,980億円となりました。せめて小中学校の給食費ぐらいは国で負担すべきですが、実現していません。さらに、岸田政権は防衛費をGDP(国内総生産)の2%と2倍に増額、教育予算の2倍以上になりました。国の礎の教育への予算がますます少なくなることは、日本国家百年の大計の上でも大問題だと思います。

 谷口 米国では多くの企業が米国内のみならず他国の優秀な大学に助成金を出していますが、日本の企業にはあまり助成金を出していません。この理由を米国人に尋ねると、「日本の大学に助成金を出してもなかなか成果が出ませんが、米国の大学は成果が上がるからです」ということでした。企業は成果や見返りがないと助成金を出さないため、日本の大学への助成金が増えないのでしょう。

 中川 教育をしっかり立て直すことがまず何よりも必要ですね。

(つづく)

【文・構成:石井 ゆかり】


<プロフィール>
谷口 誠
(たにぐち・まこと)
 1956年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒、59年外務省入省。国連局経済課長、国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任。現在は「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、桜美林大学アジア・ユーラシア総合研究所所長。著書に『21世紀の南北問題 グローバル化時代の挑戦』(早稲田大学出版部)、『東アジア共同体 経済統合の行方と日本』(岩波新書)など多数。


中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会学術顧問、中国競争情報協会国際顧問など。著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。

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