【白馬会議報告】コロナ後・ウクライナ後の日本の未来を問う(後)
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「第15回2022年白馬会議」が2022年11月19~20日、シェラリゾート白馬(長野県白馬村)で開催され、約40名が参加した。世の中を変えようという志をもった人が真剣に議論できる場所として生まれた白馬会議。今回の白馬会議では、「コロナ後・ウクライナ後の日本の未来を問う!」をテーマにして、日本を動かそうという熱意に溢れた議論が行われた。
日本経済を成長軌道に戻す「TODOリスト」とは
「新型コロナウイルスの『第8波』の影響に注視が必要ですが、コロナ禍で落ち込んでいたGDPは、22年4~6月期にはコロナ前の水準を取り戻しつつあります」と法政大学経済学部教授・小黒一正氏は語る。コロナ禍が収束に向かうなかでのウクライナ危機により供給を超えた需要が発生し、原油やLNG価格が高騰しているが、日本のガソリン代や電気代は補助金で高騰が抑えられ、欧米ほどには値上がりしていない。
物価上昇率としては、米国は21年5月ごろまで約4~5%であったが、金融政策の転換が遅れて今年には8~9%となり、利上げに追い込まれた。一方、日本は、22年9月時点で消費者物価指数(総合)が3.0%まで上がっており、インフレ加速に気をつけなければならない。
円安も問題で、輸入物価が上がり所得流出が増加しているのに対して、輸出の増加が追いついていない。その結果、貿易などによる富の流出(交易損失)が12兆円まで拡大している。「円安は財務省の為替介入で落ち着いていますが、楽観視はできません」(小黒氏)。
急増する社会保障費
22年度の債務残高対GDP比は255.1%まで増加したものの、税収が増えるなかで歳出はそれほど拡大しておらず、財政状況は少しずつ改善しつつある。足元では21年度予算の税収は63兆9,000億円まで伸び、過去最高を更新した。「これはアベノミクスの成果というよりも、消費税引き上げの増収効果が大きい。最大の税収である消費税が下支えし、法人税が伸びたためです」(小黒氏)。
歳出は、20年度と21年度は当初予算でそれぞれ102兆7,000億円と106兆6,000億円だったが、コロナ対策で補正予算を確保したため決算額はそれぞれ147兆6,000億円と142兆6,000億円にまで拡大した。22年度の当初予算は107兆6,000億円。
税収は、19年度は62兆5,000億円と20年前と比べて4兆5,000億円しか伸びていないが、歳出を見ると社会保障関係費が34兆円と20年前から約22兆円増えており、社会保障関係費の負担が急増している。23年度予算でも社会保障費は過去最大となる見込みだ。
年金・医療・介護・福祉の社会保障給付費は、18年に121兆3,000億円(GDP比21.5%)であったが、40年には約190兆円(同約24%)になる見通しだ、22年でGDP比2.5ポイント伸びることになる。現役世代が減り、財源となる社会保険料の収入は横ばいで社会保障給付費の増加に追いつかないため、穴埋めに国や地方が公費を投入している。社会保障給付費は消費税だけで財源を賄うとすると、現行の消費税にプラスして、あと5%の増税が必要だという。「基礎年金の財源の半分には国庫負担で公費が投入されており、公費を再分配の財源に位置付けるなら、それは低年金の人を中心に投下すべきです」(小黒氏)。
医療・介護改革
増え続ける社会保障給付費の見直しが迫られている。年金は18年度からの22年間で約57兆円から約73兆円、医療費は約40兆円から約67~70兆円に増加するが、経済財政諮問会議や財政当局の視点で問題となっているのは、予算に占める割合がGDP比で横ばいの年金ではなく、同約2%ポイントで増加している医療・介護費だ。公的医療保険は病気になっても、家計破綻や困窮に陥ることなく医療サービスを受けられる制度だ。
「医療費の増加を抑えるため、『大きなリスクは共助、小さなリスクは自助』として、たとえば公的保険でカバーする医薬品と自己負担する医薬品をどう分類するかについて、専門家を含めた会議で議論し、判断することが大切です」(小黒氏)。
日本の年間薬剤費は全体で約10兆円。がん治療薬のオプシーボの費用約3,500万円や白血病治療薬のキムリアの費用約5,300万円(米国の場合)が取り込まれると公的医療保険が破綻すると言われてきた。しかし、家計への負担が少ない薬の保険負担を減らせば、キムリアのような高額治療薬を公的保険に取り込むことができる。日本でのキムリアの薬価は3,349万円で保険が適用されなければ家計負担が大きすぎるが、対象患者数の予測は216人と非常に少なく、市場規模は72億円と小さい見込みだ。
一方、公的保険に取り込まれている価格の安い湿布は、市場規模が1,500億円程度と巨大だ。「家計負担の小さい薬の保険負担を少し減らすだけでも、数千億円の医療費削減となります」(小黒氏)。日本でもフランスのように、代替薬がない高額な薬は0%、一般的な薬は35%、胃薬などは70%などと自己負担割合を変えれば、医療費を約8,000億円抑えられるという。
「後期高齢者医療制度に、その医療費の伸びが名目GDP成長率以上になった場合、診療報酬の上昇率を少しだけ抑制する仕組み(医療版マクロ経済スライド)を導入すれば、医療費を中長期的な潜在GDP成長率に沿うかたちで伸ばすこともできます。今後、地方は人口減で医療需要が大幅に減少しますが、日本全体の潜在GDPに連動するかたちで医療予算を確保できるなら、地域医療を守ることができ、医師会の賛同も得られるのではないでしょうか。社会保障改革は超党派で議論すべきですが、野党もバラバラで音頭を取る中心的な議員がいません。コロナの影響で地方の医療が大きく潤ったことによって、将来の人口減による診療報酬の減少や介護の増加に向けた改革が止まってしまったことも問題です」(小黒氏)と改革に向けた議論の必要性が提起された。
(了)
【石井 ゆかり】
<プロフィール>
小黒 一正(おぐろ・かずまさ)
法政大学経済学部教授。京都大学理学部卒業、大蔵省(現・財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て現職。この間、内閣府・経済社会総合研究所客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー、内閣府・経済社会構造に関する有識者会議 制度・規範ワーキンググループ「世代会計専門チーム」メンバーなどを歴任。関連記事
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