2024年11月22日( 金 )

ロシアの北極戦略の大転換-欧ロ分断を見据えた「新・LNG戦略」とは(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

エナジー・ジオポリティクス
代表 澁谷 祐 氏

 NetIB-Newsでも「BIS論壇」を掲載している日本ビジネスインテリジェンス協会(中川十郎理事長)より、独立コンサルタントで(有)エナジー・ジオポリティクス代表・澁谷祐氏による「ロシアの北極戦略の大転換-欧ロ分断を見据えた『新・LNG戦略』とは」と題する記事を共有していただいたので、掲載する。

 プーチン氏「北極圏の自国利益を優先せよ」

北極圏 イメージ    ウクライナ侵攻(2022年2月24日)の直前、ロシアのプーチン大統領は、「北極圏の自国利益を優先する」北極圏の自国産業の自立を目指す法案に調印し、翌日成立した。

 この新法律は、2020年3月に成立したロシアの「2035年に向けた北極政策」に関する法律(旧法)を抜本的に改正する内容だった。旧法は、経済、科学、文化及び国境を越えて「北極圏諸国との良好な隣人関係を強化する」と謳った。

 ところが、新法では、ばっさり削除されて、代わりに「二国間ベースでの関係の発展及び北極圏におけるロシア連邦の国益を考慮に入れる」という文言に置き換えられた。

 その結果、「北極評議会をはじめとする北極圏の多国間協力の枠組み」が削除された。ウクライナに対する「特別軍事作戦」に並行した措置であると一般に理解された。

 ロシアの北極圏戦略の180度の大転換である。北極圏の面積のほぼ半分がロシア領である。北極情報で定評のあるノルウェーのウェブ誌「ハイノース・ニュース」の専門家は「北極圏問題が今やロシアの最優先事項になった」と論評した。 

 欧米7カ国は「北極評議会」をボイコット

 ウクライナ侵攻の翌月、政府間の対話フォーラムである「北極評議会(Arctic Council=AC)」のメンバー8カ国のうち、議長国・ロシアを除く、米国、カナダ、ノルウェーとスウェーデン等の7カ国は、「ロシアは、主権と領土の一体性確保という評議会の目的に違反した」という理由によって、ACの活動をボイコットすると声明した。

 北極圏の勢力図は“半割れの状態”

 北極圏の資源開発と輸送航路の確保の課題は、これまで北極評議会に共有されて、不可分の関係にあった。ロシアを抑止する機能も暗に期待されたのは事実だった。しかし、ロシアとの距離感が急速に遠くなった。

 北極海秩序はロシアのウクライナ侵攻とともに崩壊して、ロシアとその他17カ国の関係は分断して、“半割れの状態”になった。そして「北極評議会は死んだも同然だ」(前掲のハイノース研究所の寄稿者)。

一口メモ:北極評議会(AC)の概要

・設立
 オタワ宣言により1996年設立(事務局・ノルウェー)。

・目的
 コミュニティー、気候とエネルギーを含む持続可能な開発など北極圏問題を共有する。隔年閣僚レベル会合を開催。(軍事・安全保障に関連する事項は扱わない)

・現議長国
 ロシア(任期 2021年5月~23年5月)。

・メンバー(8カ国)
 カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデンと米国。その他参加者(6団体):北極圏諸国に居住する先住民団体。

・オブザーバー(13カ国)
 仏、独、ポーランド、スペイン、オランダ、英国、日本、中国、インド、イタリア、韓国、シンガポール、スイス)。その他(国際機関やNGO)。

・権限
 ACの決定には拘束力はない。

・活動
 北極圏の資源エネルギー管理・保全、汚染及び気候変動、氷解や生物多様性に関する科学的な研究知識の共有と協力を促進する。
※ロシアのウクライナ侵攻により、2022年3月から全体活動は事実上凍結されている。(以上、外務省HPなど) 

(つづく) 

(後)

関連記事