ロシアの北極戦略の大転換-欧ロ分断を見据えた「新・LNG戦略」とは(後)
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エナジー・ジオポリティクス
代表 澁谷 祐 氏NetIB-Newsでも「BIS論壇」を掲載している日本ビジネスインテリジェンス協会(中川十郎理事長)より、独立コンサルタントで(有)エナジー・ジオポリティクス代表・澁谷祐氏による「ロシアの北極戦略の大転換-欧ロ分断を見据えた『新・LNG戦略』とは」と題する記事を共有していただいたので、掲載する。
EU、ロシア産LNG禁輸を検討へ
北極の地政学的秩序の崩壊はロシアにとってなにをもたらすだろうか──。
ウクライナ侵攻と同時に、またこれを利用して、ロシアは積極的な拡大指向を追求している。北極圏に巨大な地政学的な利益(ボーナス)を求めて野心を隠すつもりはないようだ。
そのボーナスの一例が、北極圏のLNGプロジェクトの拡大である。
EUの対ロ禁輸・制裁のリストには、ロシア産LNGは対象ではない。そのため、制裁発動後もロシア産の輸入は続き、EU全体で2022年の輸入量は前年比50%増を記録した。
この数字は、制裁によって80%程度のレベルに大幅削減されたパイプライン供給と比べると対照的だ。すなわち、EU向けは、パイプラインの輸送減量をLNG輸出が増量するという補てんの構図である。ロシアはLNGへの期待が膨らみ、他方でEUは不満が募る。
この現状を懸念したEUエネルギー委員会は、ロシア産LNG輸入禁止・制限に向け検討を3月開始した(英国は、2023年1月1日からロシアLNGの輸入を禁止した)。欧州エネルギー委員会のカドリシムソン委員は、「既存の契約が期限切れになり次第、ロシアとの新しい契約に署名しないよう勧告する」と語った。
ドイツ、ポーランドとバルト3国は早急な輸入ゼロの実現を目指しているが、他方主な輸入国であるベルギー、スペインとフランスの3カ国は禁輸措置に抑制的であるという。
民間最大のエネルギー企業ノバテクにフランスの影
欧州向け輸出の大部分を占めるロシアの民間企業ノバテクの大型施設・ヤマルLNG液化プラントの動きに視線が集まっている。フランスのエネルギー大手トタルエナジーズの出資歴でも知られ、中国資本とも良い関係を維持している。
ノバテクは、コラ半島にあるムルマンスク近郊の浮体式積み替えハブの試運転を加速化して、ヨーロッパ向けに増強の準備を進めていたという。また、ノバテクは、中国とインド向けのLNG供給ルートの再編・最適化を求めて活発に動いている。
結び:欧州から、主力はアジア太平洋市場へ
ロシアは、2030年までにLNG生産量を1億トンに増やすために、北極圏の液化天然ガスの輸出を自由化する計画を発表した。
欧州市場向けは現状期待できないので、中国とインドを筆頭にアジア太平洋市場がターゲットとなる見通しである。英国に加えて、ドイツとバルト3国によるボイコットは織り込み済みであろう。ベルギー、スペイン、フランスの主要国の動きは微妙である。
フランスのマクロン大統領は4月上旬、北京に飛び習国家主席と会談し、随行したエネルギー業界の幹部は前掲のヤマルLNG増設をめぐり合意したとの情報もある。台湾海峡とLNGプロジェクトをめぐる交換条件で、双方が取引に応じた可能性も排除されない。中ロ仏の結束はウクライナ侵攻の前から強い。
このくだりは次号以降の「新・ジオポリ」において検証を試みる。
話題は替わるが、北極圏に眠る未開発のリソースは膨大で、そのうち石油と天然ガスはそれぞれ地球の13%、30%を占めると米地質調査所は評価している。
その上、石油・天然ガスの開発生産コストは中東産に次ぐ安さで、北極海ルートの通年利用が進めば、アジア太平洋市場までの輸送日数を短縮化でき、さらにマラッカ海峡リスクを回避できるという安全保障上のメリットもある。
最後に、エネルギー問題は、外交、ビジネスと軍事のベクトルで動いている。クールに、客観的に、そしてバランス良く合理的に見ないと危うい。
(了)
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