2024年12月22日( 日 )

【鮫島タイムス別館(12)】岸田首相夫人は公人?私人? 広島サミットは公私混同?

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岸田首相夫人単独訪米、長男の外遊につづき、批判を受けるリスクも

 岸田文雄首相の裕子夫人が訪米し、バイデン大統領のジル夫人とホワイトハウスで会談した。首相夫人の単独訪米は初めてだという。岸田官邸は訪米費用を公費で負担すると明らかにしたうえで、「日米両国がかつてないほど親密かつ固い絆で結ばれていることを示す」(松野博一官房⻑官)とその意義を強調している。

 岸田首相は米国の言い値で巡航ミサイル・トマホーク400基を2,000億円で一括購入し、米国に同調してウクライナ支援・ロシア制裁を強め、対米追従外交を続けている。バイデン大統領にすれば政治的リスクのない首相夫人の招待程度で満足してもらえるのならお安い御用であろう。

 実は、岸田首相にとって「裕子夫人の単独訪米」は政治的リスクがないとはいえない。それどころか首相夫人の言動は鬼門である。なぜなら安倍政権時代の森友学園問題で昭恵夫人の言動が「公私混同」と追及され、首相夫人は「公人ではなく私人」とする答弁書を閣議決定し、世論の批判を浴びた記憶が生々しいからだ。

 今回もネット上では「公費で訪米するのなら私人とは言わせない」などという異論が飛び交っている。ただでさえ、長男翔太郎氏の首相秘書官起用が「縁故人事」と批判を浴び、さらには翔太郎氏が父親の欧米外遊に同行して公用車で観光地や高級デパートをめぐっていたことが発覚して批判が高まっただけに「家族の公私混同」には人一倍気を遣っているはずだ。

 それでも裕子夫人の単独訪米にゴーサインを出したのは、5月19~21日に地元・広島で開催するG7サミットに向けてバイデン一家との蜜月ぶりをアピールする絶好の機会だからだ。裕子夫人が来日するG7首脳夫人たちをもてなす場面は広島サミットの「成功」を演出する重要なアイテムとなる。それにむけてジル夫人とあらかじめ親交を深めておくことも効果的と考えたのだろう。

 今の岸田首相は地元開催の広島サミットで頭がいっぱいだ。ウクライナのキーウ訪問も何とか実現し、ゼレンスキー大統領のオンライン参加の約束も取り付け、岸田政権に刻まれる金字塔として広島サミットを「成功」させることが最優先課題である。内閣支持率が回復して自民党内に高まる早期解散論も封印し、徹底して「広島サミット・ファースト」なのだ。

問い直されるサミット広島開催の意義

 そもそも広島でのサミット開催を決断したのは、岸田首相自身である。「地元への利益誘導」や「公私混同の地元誘致」との批判が高まらなかったのは、広島が世界で最初に原爆を投下され、世界平和を願う象徴的な都市だからだった。

 ウクライナ戦争で米ロ対立が深まる今、ロシアのプーチン大統領が核兵器の使用を示唆している今、さらには米中の覇権争いが激化する今、被爆地・広島から世界に向かってG7が「停戦」「核反対」「平和」を訴える――そこに広島開催の意味があるはずだ。

 バイデン大統領はウクライナへの武器支援を拡大させる一方、停戦に動くそぶりをみせていない。米国の軍需産業は潤い、エネルギー業界も原油高騰で好調だ。戦争を長期化させてロシア経済を疲弊させ、プーチン政権を打倒することにバイデン政権の狙いがあるとも指摘される。中国主導の停戦への動きにも冷ややかだ。一方、欧州では「戦争疲れ・制裁疲れ」が広がり、フランスのマクロン大統領は訪中して中国に調停役を期待する意向をにじませた。

 G7唯一の非欧米国として、しかも被爆地・広島で開くG7サミットの議長を務める岸田首相にいま求められる役割は、バイデン大統領に追従して対ロシア強硬姿勢をアピールすることではなく、バイデン大統領を停戦協議に引っ張り込むことではないのか。

 しかし岸田首相の意向はまったく逆のようだ。バイデン大統領との蜜月ぶりを演出することが広島サミット成功の秘訣と信じ、そのための裕子夫人の単独訪米なのである。これでは広島でサミットを開く意味はなく、単なる地元への利益誘導と批判されても仕方がない。

 時を同じくして米国から興味深いニュースが転がり込んできた。トランプ前大統領が安倍氏から寄贈された黄金のゴルフクラブを返却するという。米国では公職者が外国要人から贈られた品物は米国民の財産とされ、申告しなければならない。トランプ氏はこれを拒んできたが、34の罪で起訴されたことを踏まえ、自発的に返却することにしたようである。

 トランプ氏はSNSに「私の友人であり元日本首相の安倍がくれたドライバーはフロリダ・パームビーチのトランプ・インターナショナル・ゴルフクラブで他のクラブと一緒にロッカーにあった。そのドライバーは一度も使ったことがない」と書き込んだ。素っ気ないものだ。

 安倍氏は2016年、次期大統領に決まっていたトランプ氏が正式に就任する前に他国に先駆けて訪米し、黄金のゴルフクラブを贈って近づこうとした。私はトランプ氏が安倍氏を従えるようにゴルフに興じていた姿を思い浮かべた。

 しかし岸田首相の脳裏に「トランプ-安倍」関係は成功モデルとして刻まれているのかもしれない。自分もバイデン大統領と同様の関係を築きたいと心底願っているのではないだろうか。

【ジャーナリスト/鮫島 浩】


<プロフィール>
鮫島 浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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